Writingsコラム

広島県とシャインマスカット

夏の暑さの影響で、2025年産のぶどうは甘くて美味です。今、人気のぶどうといえばシャインマスカット。皮ごと食べることができ、種がないというのが最大の強みで、フルーツを面倒だと言って敬遠しがちな人たちの心を、しっかりとつかみました。さて、このシャインマスカットが広島県生まれだということをご存知だったでしょうか。

広島県の農研機構により、安芸津21号と白南の交配によって1988年誕生し、2006年に品種登録されたのがシャインマスカットです。親となった安芸津21号は安芸の名の通り、同じ広島県農研機構生まれ。アメリカぶどうのスチューベンとヨーロッパぶどうのマスカット・オブ・アレキサンドリアを掛け合わせてできたものです。実はぶどうの世界では、アメリカぶどうとヨーロッパぶどうを掛け合わせることを交配ではなく交雑というのだそうです。両者は完全に種が違っているという理由からです。香りの表現も違っていて、ヨーロッパ系は「マスカット香」、アメリカ系は「フォクシー香」と使い分けられます。安芸津21号はマスカット香とフォクシー香が混じった、ちょっと残念な香りのするぶどうでした。

一方、白南は、どちらもヨーロッパ系であるカッタクルガンと甲斐路を交配して生まれたもの。こちらも広島県農研機構の生まれです。これに交雑種である安芸津21号を掛け合わせたら、シャインマスカットが誕生したのですから、種の多様性がいかに大切かという学びがあります。

さて、広島県にはもう一つ有名な高級ぶどうがあります。「黒い真珠」と言われる三次(みよし)ピオーネです。山に囲まれた盆地で、昼夜の寒暖差が大きい三次の気候特性が活かされ、大粒で甘いのが特徴。広島県内で三次ピオーネを知らない人はいません。が、県内でだいたい消費してしまうため、県外にあまり出回らず、全国的な知名度は低いのだとか。

ピオーネはカノンホール・マスカットと巨峰を掛け合わせてできた品種です。静岡県伊豆の国市(旧:伊豆長岡町)で1957年に誕生し、英語で「開拓者」を意味する「パイオニア」と名付けられましたが、1973年にイタリア語へと改名されました。三次市では1974年からピオーネづくりが始まり、品質・規格の統一が決まっている地域ブランド認定品となりました。

巨峰は、日本で作付け面積をトップを誇り、昭和後期から長く愛されてきた品種です。高温多湿でも育てやすく、粒も大きなことから「ぶどうの王様」とも言われています。血筋としてアメリカ系が4分の1入っている巨峰と、ヨーロッパ系のマスカットと掛け合わせられた結果誕生したピオーネは、巨峰の甘みとマスカットの香りを有し、いわば「いいとこ取り」のぶどうで、こちらも種の多様性がうまく作用したようです。

広島県のぶどう収穫量は全国10位とあまり多くなく、先述したようにあまり県外に出回りません。こうした地産地消のサイクルに入り込むには、現地で食べるか、あるいは通信販売やふるさと納税などを使ってみるのがいいのかもしれません。

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