Writingsコラム
フィンランドの電力戦略は再生バッテリーで

現在、再生可能エネルギーの分野で先頭を走っていると言えるのは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドといった北欧諸国でしょう。ノルウェーとスウェーデンは水力発電、フィンランドは原子力発電が3分の1を占めますが5割が水力と木材などから出るバイオマスからの発電で電力を供給しています。デンマークは風力、アイスランドは地熱発電と、自国の自然環境を最大限に活かした再生可能エネルギーを基盤とし、5カ国で協調しながら脱炭素社会を実現しようとしています。そんな北欧の国々の中で、電子機器産業に強いフィンランドで力を入れているのが再生バッテリーだということをご存知でしょうか。
バッテリーは放電と蓄電を繰り返すと徐々に劣化していき、永遠には使えないものです。使っていくうちに内部の希硫酸が徐々に鉛の結晶となっていき、内部に溜まるせいで、化学反応が起こる割合が減っていってしまうからです。
バッテリーの原材料にはリチウムやコバルト、マンガンといった希少鉱物が使われています。フィンランドではバッテリーに使われる鉱物資源が豊富で、供給体制が確立されているため、ドイツの総合化学メーカーBASFはいち早くこの地に工場を建設したほどです。また、フィンランドはリチウムイオン電池からの希少金属回収に力を入れており、回収比率を高めていこうという試みが進行中です。
バッテリーを使用するEV車は、極端な暑さと寒さに弱いのが現状です。が、ノルウェーでのEV車普及率は2024年現在93%にも上り、2025年には新車の排出ガスをゼロにする目標も掲げています。これは政府による免税制度などの後押しと、自治体など公共施設には必ず備え付けられているという充電インフラの整備。元々あるガソリン車でも、冬季にエンジンオイルが凍らないようヒーターに充電するため、200ボルトという高電圧のコンセントが各家庭の車庫に備えられているというノルウェー独自の住宅事情があり、急速充電が可能となっていました。寒冷地帯でのバッテリー充電の欠点は、通常より時間がかかることですが、ノルウェーの住宅の特殊事情は、この欠点を覆しました。
ノルウェー以外の北欧諸国のEV車の普及率は、アイスランド74%、スウェーデン60%、フィンランド54%、デンマーク46%。充電に時間がかかるということから、ノルウェー以外の国でバッテリーチャージ渋滞が起きたものの、人々はEV車に乗り替えています。それは二酸化炭素規制を各国政府が実行し、EV車が税などの優遇措置を受けているからです。
EV車をはじめ、電子機器にはバッテリーが欠かせません。そして北欧諸国は循環経済(サーキュラーエコノミー)への理解が深く、フィンランドでは再生バッテリー事業を含めた雇用の増加もロードマップに織り込んでおり、2030年には新たな雇用が75,000人を超えると見込んでいます。フィンランドの人口は550万人で、失業率は2021年は7.8%、2022年には6.8%と低下傾向にありますから、いかに大きな雇用を生み出そうとしているのかわかると思います。
フィンランドはさらに先を見ており、希少金属のリサイクルを含めたEU圏内でのバッテリー関連事業の中心地を目指しています。ノルウェーのように石油やガス資源がなく、森林が国土の7割を占めるフィンランドでは、以前から林業に頼りすぎない経済の多角化を目指し、電子機器産業を発展させてきました。電子機器とバッテリーは欠かせない関係にあります。そうしたわけで、フィンランドはバッテリーの再生化に力を入れているのです。