Writingsコラム
ミネルバ大学、知ってますか?

ミネルバ大学という大学名を聞いたことがあるでしょうか。従来の大学とはいろいろ違っているということや、名門と言われるハーバード大学やスタンフォード大学よりも入学するのが難しいという話があります。ミネルバ大学についての概略をお伝えします。
ミネルバ大学は2014年に新設された、創立10年余りの大学です。アメリカ・サンフランシスコに拠点がありますが、学生たちは4年間で世界7都市の中から移住する場所を選択し、オンラインで学びます。ミネルバ大学には校舎や図書館、スポーツ施設などはありませんが、学生たちが共同で住む学寮はあり、滞在する街を一つのキャンパスと考えています。学生たちは、初年度の1年間はサンフランシスコで過ごしますが、2年次からは前期、後期の単位でベルリンやブエノスアイレスなど世界各地を巡っていくことになります。
創設者のベン・ネルソンはハーバードをはじめとしたアイビーリーグ(アメリカ東部8大学)の一つであるペンシルバニア大学出身ですが、学生時代から大学教育のあり方に疑問を持っていたそうです。自律的な思考が育まれることもなく、他者のために役立つ意思決定がなされない。学費も高額であることから富裕層が入学しやすく、留学生はインナーサークルに入れない等の問題点がありました。シリコンバレーで成功を収めたネルソンは、ハーバード大学の社会科学学部長というキャリアを持つスティーブ・コスリン教授と共に、理想の大学を作りました。
同校の授業は、全てオンラインのディスカッション形式で行われます。学生たちは授業前に資料を読み込み、準備することが必須となります。きちんと予習をしているか否かは、授業前の5分間、記述式クイズで試されます。教授は授業時間全体で10%以下しか話すことはできないと決められており、授業の記録は全て残されます。これを元に学生へのフィードバックが行われ、成績評価が決められます。ペーパーテストはありません。
授業は午前中で終わり、午後は予習や地域探索、学生同士の交流の時間となります。学生たちは滞在する地域の企業や自治体、NPOとの共同プロジェクトに参加することになり、こうしたオフラインの活動からは、現実にある問題の解決への手段を養うことになります。教員も終身雇用ではなく、授業内容によって評価が決まることから、若く、やる気のある教員が集まりやすくなっています。
世界各地から集まってきた学生との対等な交流と、問題解決へ向けての話し合いは、他者のバックグラウンドを理解していく努力を怠らないという習慣を根付かせます。街の探索で、地域ごとに存在する問題点を洗い出し、プロジェクトを発案しすることは、プレゼンテーションの能力を磨きます。実現へのプランの立て方と実行から、行動力と実現力が養われます。
ミネルバ大学の授業料は年間2万ドル(1ドル150円換算で300万円)。奨学金制度も充実しており、学寮費を含めてかかる金額は150万円程度に抑えられるようです。ちなみに東京大学の年間学費は58万円ほどですが、ハーバード大学の年間授業料は5万3000ドル(前出レートで795万円)です。
創立から10年が経ち、増えてきた卒業生たちが関わる注目の事業やNPOが話題になることが多くなってきています。学生時代に問題解決力を磨いてきた彼らの、今後の活躍に注目していきましょう。