Writingsコラム
ダチョウを侮るなかれ

長い首に大きな目、身長は2メートル越えで、鳥であるものの飛ばず、代わりに走れば時速70kmほどの俊足を誇るダチョウ。頭が悪いなどと言われていますが、今も昔も人類のために貢献してくれている鳥のようです。
ダチョウは頭が悪いというイメージの流布は、2,000年ほど前からです。古代ローマの博物学者プリニウスが「博物誌」に、危険が迫っているダチョウが砂の中に頭を突っ込んで、敵を見ないようにしたという行動を書き記しました。ここから「頭隠して尻隠さず」という諺ができたほど広まったのですが、実際にダチョウを観察すると、頭を砂の中に突っ込むことはせず、地面の近くまで頭を下げて草を食べたり巣を手入れする行動ならします。プリニウスは時々、事実に反することも記述しているので、ダチョウは根拠不明のフェイク記事による被害者だと言えるかもしれません。
ただ、ダチョウを研究している京都府立大学学長の塚本康浩博士の「ダチョウがアホだが役に立つ」という本によると、間抜けな面も目につきます。ダチョウは家族単位で生活していますが、別のメンバーが混じっていても気づかないのだとか。一匹が走り出すと、釣られて走り出してフェンスに激突するなど、「考えなし」の行動をするようです。これはライオンやハイエナなどの捕食者から、とにかく逃げることを第一に考えるため。大きな目の使い道も、敵を素早く見つけることに特化しています。家族の入れ替わりに気づかないのは、他所の個体でもおおらかに受け入れて、集団で子育てをしていく性質からだと解釈されています。
ダチョウの卵は鳥類最大の直径15cmで、殻も厚くて硬く大人が乗っても割ることは難しいレベルです。ただ、象であれば簡単に踏み潰しますし、大型の肉食獣であれば割って食べることも可能です。ダチョウは卵のために戦わず、走って逃げることが生存戦略なので、より多くの卵を産み育てる必要があります。ということで、繁殖の相手も単一ではなく複数に渡ります。
卵は人間にとって、ニワトリよりも卵アレルギーの原因物質が少なく、大きさも30倍1.5kgもあるため、インフルエンザなどの感染症ウイルスワクチンの大量生産に役立てる研究が進んでいます。またダチョウは免疫抗体がとても強く、大きな傷を負っても脅威の回復力を示し、これもまた利用価値が高いとされています。今後のワクチン大量生産に先駆け、まずは感染予防マスクなどが作られています。
肉に関しては、ニワトリ同様に、モモや赤みのフィレ肉、スネ肉、首の肉など、ほとんど余すことなく食べることができます。内臓も心臓(ハツ)や砂肝、肝臓(レバー)などが楽しめます。鶏肉に比べ、脂身が少なく、低脂肪、低カロリー、高タンパクといいことだらけ。鉄分が豊富なので、ニワトリ、豚、牛肉に続く第4の肉として大手食品チェーン店も注目しています。
皮も、クイルマークという独特の突起がある高級皮革オーストリッチとして、財布やバッグなどに昔から利用されています。忘れがちではありますが、羽も装飾品として使われ続けており、フランス宮廷では貴婦人たちのヘアスタイルを大胆に飾り、現代でも帽子や宝塚の舞台でフィナーレを飾る衣装などで活躍中です。
大きな目でせわしなく周囲を見まわし、大地を疾走するダチョウ。ゆるさと愛嬌を兼ね備えた生き物ですが、これから先、我々にとって役立ってくれそうな、頼れる存在でもあるようです。


