Writingsコラム

緑の「庭」が潜む宝石、エメラルド

植物の葉が、新芽から深い緑へと変化していく今日この頃。緑は5月を象徴する色のようで、誕生石も5月は緑色のエメラルド。なんでも緑の石の奥に「庭」が潜んでいるとか。どんな庭なのか、探っていきましょう。

エメラルドはベリリウム鉱物の一種で、六角形の柱状結晶の貴石がベリル(緑柱石)と呼ばれます。参考までに、金属としてのベリリウムは、軽量で強度が高く、スピーカーの反射板や宇宙望遠鏡、レントゲン撮影に使われます。貴石としてのベリルは幅広い価格帯の宝石で、クロムの作用によって緑色に発色したものがエメラルド、鉄分が作用して水青色になったのがアクアマリン、マンガンで赤くなったのはレッド・ベリルと言われ、希少なものはその分、値段が高くなります。

エメラルドはペルシャ語で「緑の宝石」を意味し、4500年前ほどから愛されてきました。インカやアステカでは王冠などの装飾品や神への供物として使われ、エジプトの女王クレオパトラは自身の瞳の色がエメラルドと同じだったためか、エメラルドを砕いたアイシャドウを使っていたとか。昔は権力と支配の象徴として使われ、中世ヨーロッパの聖杯伝説では、不死をもたらす聖杯はエメラルドでできていると言われていました。時を経て、成長、再生、希望を象徴する宝石として使われていき、英国の婦人参政権運動ではメッセージを伝えるためにデモに参加する女性たちが身につけたりもしました。

市場価値は透明度で決まりますが、「傷のないエメラルドを探すのは、欠点のない人間を探すようなもの」とも言われているほど、内包物(インクルージョン)の多い宝石でもあります。また、内部のひび割れ(フラクチャー)も当然あるものとして容認され、フランス語では庭を意味する「ジャルダン」と呼ばれ、エメラルドの個性として尊重されます。

代表的な産地はコロンビアで、60%の世界シェアを誇ります。以下、ジンバブエ、パキスタン、ロシア、ブラジル、タンザニア、南アフリカと続きますが、世界最大380kgもあるエメラルドの原石は2011年、ブラジルで採掘されました。が、これは「呪われたエメラルド」としての名も冠することになりました。鉱山からの輸送途中にパンサーの群れに襲われたのを皮切りに、購入者の米国人が闇ルートで取引したため、数々の盗難被害に遭います。最終的にはラスベガスの宝石ディーラーのもとで見つかり、国家の管理下に置かれることになりました。これが報道されると、多くの人々がエメラルドの所有権を主張し始め、放火や誘拐事件などが起こりました。その後、2017年にこの100m先の場所から360kgのエメラルド原石が発見されましたが、前例を踏まえ、所有者は匿名を守り、盗難防止のために、保管場所は不定期に移動しているという話です。

エメラルドはデリケートで、熱や乾燥、薬品に弱い宝石です。これは、何かしらついている傷を埋めるためにオイルや樹脂で加工されているせいです。加工が抜けると輝きが薄れてしまいうため、手入れは柔らかい乾いた布で拭く程度にとどめることが推奨されています。アクセサリーとして加工されたエメラルドは、それだけで美しいものですが、カットされていない原石の方が、インクルージョンやフラクチャーを「庭」の風景として鑑賞に専念できそうです。これはという石を見つけたら、手元に置いておくと楽しい時間を過ごせるかもしれません。

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