Writingsコラム

その名に偽りあり?糖尿病

名前はよく知られているのに、糖尿病に関して、当事者以外は深く理解していないかもしれません。そもそも「糖尿病」というのに、その名はこの病気の実態を表していないとか。糖尿病に関しての正しい知識で、誤った思い込みを排除していきましょう。

糖尿病は、膵臓から出るホルモンであるインスリンが十分に働かなくなる病気です。インスリンがうまく機能しないと、血液の中を流れているブドウ糖(血糖)が増加し、長期間放置されると血管を破損していきます。ここから心臓病、失明、腎不全、足の切断など、重い症状につながっていくのが糖尿病の怖いところです。

膵臓からほとんどインスリンが出なくなってしまうのが1型糖尿病。自分でインスリンを作れないため、注射でインスリンを補わなければいけません。1型糖尿病は原因不明で、治ることがなく、進行し続けます。また年齢に関わりなく、子供でも発症します。1型糖尿病患者は、生きるためにインスリン注射を欠かせません。

一方、2型糖尿病は、食事や運動習慣に問題があってインスリンの分泌が低下したり、効きにくくなっていってしまう状態になります。血糖値を望ましい範囲内に調整するために、初期段階では食事や運動習慣を見直すことで、薬や注射を頼ることなく改善していくことが可能です。患者は中高年が多く、美食を好んだり、運動習慣があまりない人であるという情報に引きずられ、偏ったイメージを持っている人もいるでしょうが、妊娠時などで血糖値が上昇することで発症することもあるので、思い込みによる素人判断は危険です。診断された場合は、医師の指導や投薬などで治療することが大切です。

糖尿病は2世紀にカッパドキアの医師アレタイオスが命名しました。糖尿病の症状の一つとして多尿が挙げられます。飲んだ水がどんどん尿となって出てくる患者が、まるで絶え間なく水が流れるサイフォンのようだということで、ギリシア語で「通り過ぎてしまう」意味のサイフォンと呼ばれていました。ラテン語でサイフォンはダイヤビティス(Diabetes)と言います。似たような症状に、尿崩(にょうほう)症があるため、18世紀の医師ウィリアム・カレンが、蜜のように甘い(Mellitus)という意味を加え、ダイヤビティス・ミルズとしました。この直訳が糖尿病です。

実は糖尿病患者のすべての尿が甘い匂いがするわけではありません。糖尿病でも尿から糖が出たり出なかったりとまちまちです。というわけで、現代の診断基準には尿糖陽性は含まれていません。しかしながら病名に「尿」がついていたり、生活習慣に問題があるから、などの偏見があるため、恥ずかしいと受診が遅れたり、原因不明の1型糖尿病に対する無理解が社会的に蔓延しています。

そうしたことから、糖尿病からダイヤビティスへと病名を変更しようという動きがあります。認知症や統合失調症、ハンセン病なども、時代の流れに従って改名されてきました。糖尿病もそろそろ変えてもいい時期なのかもしれません。

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