Writingsコラム
働きたくなるオフィス空間

オフィスは機能性だけを追求しがちですが、働く人たちの心地よさも求めていくと働く意欲も上がっていく、と各社、オフィス環境の向上に目を向けているようです。今のオフィス事情はどうなっているのか見てみましょう。
まずはマイクロソフト社。アメリカのシアトルにある本社は、快適なオフィス空間づくりの先駆者です。広大な敷地の中に散歩道や池、テニスやバスケットコートなどがあり、食事や飲み物は全て無料、敷地内に眼鏡店があるなど、まるで一つの街です。これほどの規模ではなくとも、多くの企業が参考にしています。
自然を取り入れることは、それなりの敷地と環境がなければなりませんが、ちょっとした空間ならば取り入れやすいものです。スタッフ同士のコミュニケーション活性化を図るため、ゲーム機やトレーニングマシン、座り心地の良いソファや音楽設備が用意されていたりと、ITをはじめ、新分野に取り組むベンチャー企業ほど、リフレッシュやリラックスできる空間を別に用意しているようです。
デザインという観点に目を向けてみると、スイスのメディアグループである、タメディアの本社ビルは、プリツカー賞を受賞した日本人建築家・坂茂(ばん しげる)氏の作です。2013年に完成した同社の七階建てビルは、世界初の木造建築ビルでした。これを皮切りに坂氏は世界最大級の木造ビルであるスウォッチ・オメガ本社も手掛けるなど、木材を使った建築の魅力と必然性を表現し続けています。
企業所属のデザイナー80人に、建築やインテリアデザインだけではなく、デスクや椅子の選定や照明デザインなど、オフィスに関わる全てを任せた企業もあります。東京・南青山にある富士フィルムの拠点CRAY(クレイ)では、建物外観からマンホールの蓋に至るまで「同社らしさ」をデザイナーが表現した「作品」となっているのが興味深いところです。
通常であれば、業績が上がれば広く新しいオフィスへと移るものです。が、メガネ業界で大きなシェアを占めるジンズが2023年に移転したオフィスは、そうではありませんでした。あえて将来的に取り壊しが決まっている9階建てのビルを借り切り、大胆なリノベーションを施したのです。1階は半野外のカフェ。オフィススペースの他にギャラリーや熱帯植物を育てる実験室、屋上にはサウナがあるという規格外のものです。ベンチャーとしての挑戦者の気概を取り戻したいという経営者の思いが形になりました。
デンマークの家具ブランドカール・ハンセン&サン ジャパンは、リノベーションされた一軒家で、職人技が光る自社製品を展示し、見せて、働く人が実際に使ってみせるオフィス・ショールームという形式を採用しています。在宅ワークが進んだ現在、顧客が何を求めているかを考えた結果であると言えます。
働き方も価値観も多様化しています。これからもっと、従来の枠にとらわれないオフィス空間が求められることが予想されます。そんな日に備えて、理想のオフィスに関して考えてみるのも楽しいかもしれません。