Writingsコラム
こうじ菌は日本の宝

日本の伝統的酒造りが、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されることが決定しました。正式には「伝統的酒造り 日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術」が登録内容となります。日本の酒造りの何が特徴的なのかを紐解いてみましょう。
まず、酒税法において、酒は製法によって4つに区分されています。ビールなどの発泡性酒類、清酒や果実酒などの発酵酒類、ウイスキーをはじめとした蒸留酒類、これらのものにアルコールや糖分を添加した混成酒類です。
この発酵酒類の中に清酒があり、その中に日本酒が含まれています。清酒は、海外産も含めた米、米こうじ、水を原料として発酵したもの。日本酒は原材料すべて国産のものを使用し、国内で製造したものと定義されています。ですから、材料が国産でも生産地が海外のものは、日本酒と名乗れないのです。
日本酒はカビの一種である「こうじ菌」を使って米を発酵させます。酒類は発酵によってアルコール成分が生まれるのですが、米の主成分はデンプンで、ブドウや麦などと違って糖分が含まれておらず、米だけでは発酵できません。こうじ菌の力を借りることでアルコール発酵が可能となるのです。
こうじ菌は別名コウジカビ(学名:アスペルギルス・オリゼー)。これを豆や米、麦などに付着させて繁殖させたものが麹(こうじ)です。中国から伝わってきたと言われており、「麹」という漢字は大陸由来のもの。「糀」と漢字表記する場合もありますが、こちらは明治以降にできた国字となります。糀は米こうじを示すことが多く、麹は麦・米・豆など穀物で作られたこうじ全般のことを示す場合が多くなっています。
酒だけではなく、味噌や醤油など発酵食品造りにはこうじ菌が欠かせません。こうじ菌は日本の食生活の独自性を支える存在として、2006年に日本醸造学会大会で国菌に認定されました。だいたい1,000年以上前から受け継がれてきており、食品の特性にあったこうじ菌が、種こうじ屋によって製造業者に提供されます。
種こうじ屋は全国で十数社。酒造業者向けだけに限ると8社しかありません。対する酒造業社は1,600社ほどですから、さぞかし儲かるのではないかと思われますが、そうではないようです。200g数千円の種こうじ1袋で一升瓶数千本の日本酒が醸造できるため、大きな商いにはなりにくい業界なのだとか。それよりも菌を顧客ごとに保管し、雑菌が混じらないように管理していくなど、品質維持へのコストがかかり、種こうじ屋の先行きは不透明です。海外流出の懸念もあり、何らかの対策が必要な状況になっています。私たちの食生活に欠かせない、日本にしか存在しないこうじ菌を、手遅れになる前に守っていきたいものです。