Writingsコラム
意見を届けるクアドラティック・ボーティング

少数派の声が反映されにくい。極端な考え方から分断が起きているなど、民主主義の危機を誰もが感じはじめているのではないでしょうか。あまりうまく機能しているとは言い難い民主主義を、デジタルの力を使って変えていこうという考え方があります。代表的なのは、クアドラティック・ボーティング(Quadratic Voting)。台湾の初代デジタル発展部長(大臣)オードリー・タンが浸透させたシステムです。
クアドラティック・ボーティングは、1人1票ではなく、手持ちのポイントを複数の選択肢に分散して意見を投票する制度です。例えば1人に与えられたのが100ポイントだとすると、100すべてを1つの選択肢に入れた人は10票という扱いに。25ポイントの場合は5票、4ポイントの場合は2票という扱いになります。このポイント数と反映される票数の算出方法は、1票あたり平方根(2乗)で、手持ちのポイントはこの割合で振り分けられます。1ポイント投票したら1票。9ポイントならば3票という具合です。仮に1人100ポイントが付与されている場合、4つの課題に対して均等に25ポイントずつ振り分けると、各課題に5票ずつ投票したことになります。
しかし人によって課題に関する関心の度合いは、均等ではないことが多いでしょう。例えば、100人の人が食べたいランチに投票する場合、A:ラーメン B:ざるそば C:ハンバーガー D:餃子定食という4つの選択肢があるとします。なんとなく中華が食べたい気分の人はAとDの比重が高くなるでしょう。食欲がない人はB一択かもしれません。AかCで悩む人もいるでしょう。その人なりの気分でポイントを配分すれば、100人の人が食べたいランチの傾向が見えてきます。
自分で計算して手持ちのポイントを配分するのは面倒ですが、それを簡単にするのはテクノロジーの力です。さほど難しくないシステムで、ポイントから票への配分することが可能です。どの意見が多かったのかだけではなく、立場が違っても重なり合う部分があるのかどうかなど、簡単に可視化することもできます。こうしたシステムは無料ツールもあり、日本の自治体でも採用することが増えてきています。
地方自治体は過疎化に悩んでいることも多く、人口減のために議員のなり手がいないという問題も発生しています。クアドラティック・ボーティングは直接民主制なので、スマートフォンとアプリの使い方を学んでもらえば、外出しにくい高齢者も自宅に居ながらにして自分の意見を反映することができます。地域によっては若年者は自分の意見を主張しにくいという空気感があっても、顔を合わせることがないこのシステムならば自分の意見を表明しやすいでしょう。このようにクアドラティック・ボーティングを使えば、選択肢が多い問題に関してのそれぞれの関心の濃淡を探ることができます。
ギリシアで始まった民主主義は、1人1票制を長い間続けてきました。この伝統的手法は白黒はっきりつけたい場合は効果的ですが、問題はそう簡単なものではないのがほとんどです。デジタル技術の進化で、濃淡ある人の気持ちを数値化することが可能になりました。クアドラティック・ボーティングに代表されるように、民主主義はテクノロジーによってアップデートされる時期に来ているようです。