Writingsコラム
着物を、より自由に

洋服が一般的である現代では、動きやすさや費用、管理の手間などから和服は敬遠されがちです。その一方、成人式や結婚式など和服を着ることができる機会に、伝統にとらわれない、独自の着こなしを実践する人も増えています。伝統衣装で決まりが多いと思われがちな着物の現状は、どうなっているのでしょうか。
成人式で有名なのは、福岡県北九州市で「ド派手」な衣装をレンタルする「みやび」というお店です。20年ほど前から、極彩色や金銀を過剰なまでに盛り込んだ袴や振袖を成人式用に用意し、共感する若者からの口コミで、レンタルする人が増えました。当初は周囲からの批判が多かったものの、2023年にはその際立った独自性が評価され、ニューヨーク・ファッションウィークに招かれました。以降、有志たちが集まり、成人式の日にはレッドカーペットを用意して成人式をファッションショーのように演出するイベントを行うなど、「公認」へと動きが高まっている模様です。
新品はそれなりに値が張るものですが、古着ならば手頃な価格で揃えることができます。おしゃれが好きで着物という分野に興味を持ち始める人、マンガやアニメのコスプレから着物ファッションに手を染める人などは、着物は冠婚葬祭時にしか身につけない特別なものではなく、街歩きの装いの一つとして選んでいるようです。レースや金属のアクセサリー、ベルトやベレー帽などの洋服の小物を組み合わせ、パンツやスカートと合わせるスタイルがあったりと、その世界は自由そのものです。
成人式に着る華やかな柄の振袖も、ドレス風に着付ける「オリエンタル和装」という楽しみ方があります。着物にハサミを入れてドレスとして仕立て直すのではなく、あくまでドレス風に着付けるだけなので、次の機会は着物として着ることができます。手持ちの帯だけではなく、レースのドレスとの重ね着するアレンジもあり、結婚式などのドレスアップ時に取り入れる人も増えています。
洋服はパーツを組み合わせて立体的に作られますが、着物は一枚の反物から平面に仕立てられ、体型に合わせて立体的になるように着付ける衣装です。労働や舞踊など動き回る場合はゆるりと、お茶会などの社交の場ではきちんと感が出るようにするなど、その人が生活する中で、最適な着付け方が昔はたくさんありました。着物を日常的に着る人が少なくなるにつれ、経験の浅い人を対象とした着付けを教える教室が誕生し、わかりやすいようにと基礎的なルールが設けられました。こうしたルールに外れる着こなしはよくないと考える人もおり、街中で見ず知らずの人に注意するなどの行為が、着物を楽しもうとする初心者のハードルを上げているという声も聞かれます。
けれども、体に合わせて着こなすものだからこそ、その人なりの着こなしを表現できるのが着物の特徴です。きちんと見える着こなしや基本ルールも大切ではありますが、着心地や自分のファッション感覚に従って自由にアレンジしていく人たちの試みもまた素晴らしいものです。着物のことをよく知らなくても、独自に着方を設定できるという特性がある着物の世界を柔軟に受け止めていきたいものです。