Writingsコラム
ヤギについて考える

旅先などで、のんびりと草を食べるヤギの姿を見ると心が和みます。子供と触れ合う動物園でもヤギは人気者。ヤギの乳から作られたシェーブルチーズは独特の風味で、やみつきになる人も。家畜として、人類と付き合いの長いヤギについて、知識を深めていきましょう。
ヤギは紀元前8,000年頃からヒツジと共に家畜化していったと考えられています。野生のヤギを含め、種類は500ほど。野生種は大きな角を持っていますが、家畜化されたヤギの角はさほど大きくありません。牛などに比べ、ヤギは過酷な環境や粗食に耐えられるので重宝されてきたようです。
ヤギは草食で、動物性のものを食べるとお腹を壊します。家畜として飼う場合、骨粉などが入った配合飼料を食べさせてはいけません。雑草を食べてくれると、農家や自治体で重宝されているヤギですが、ドクダミなど苦味のある草は食べてくれず、農産物や街路樹などが美味であると狙われます。ヤギは「食い尽くし系」で、離島などに持ち込まれ、野生化したヤギが島の草を食べ尽くしたという事例も多くみられます。
ヤギに除草役を任せるためには注意が必要です。食べてもいい範囲を決めて柵で囲う、首輪をつけるなどの対策をしなければなりません。また、ヤギは水辺を嫌う性質があるので、雨の日に濡れてしまうような飼育舎で飼うと、脱走の恐れが。また、好みではない草ばかりあると、よその土地に移動しようと脱走を試みてきます。こうした特性を考慮し、人間が草刈機で入っていけない傾斜地や狭小地など、ヤギが得意とする場所で草を食べてもらうことが、除草役としての能力を存分に発揮することにつながります。
国土交通省近畿地方整備局では、河川脇に広がる遊水池の除草をするためにヤギを採用しています。2015年三重県名張市の木津川上流河川事務所を皮切りに、2025年で10年目を迎えました。堤防はイノシシやモグラなどが穴を掘ってしまうと役に立たなくなるので、視認のための除草が必須となっています。以前は年2回、機械で除草していましたが、ヤギ6〜8頭を夏期に放すことでコスト削減となったようです。堤防を囲う金網越しであるものの、ヤギと触れ合えるため、地域の子供達にも人気なのだとか。
ちなみにヤギを個人で飼育する場合は、家畜保健衛生所への書類提出が必要です。ワクチン接種や駆虫などしてあげなければなりませんし、柵や飼育小屋、給水機などの設備も欠かせません。どんどん草を食べる大型種の場合は8〜15万円、小型で愛玩用として人気の高い種ならば12〜16万円くらいで購入できるそうです。レンタルの場合は、業者が飼育や健康管理を行なってくれるプランが整っているので、企業や自治体はこちらを利用することが多いようです。
日本ではイソップ寓話の影響からか、か弱い存在で、愛らしいという印象が強いヤギですが、キリスト教圏ではねじれたツノのイメージから悪魔の象徴とされてきました。古代ローマでは欲望と快楽、中国ではねじれた性格を表すなど、散々なものを背負わされています。イスラム教徒からはヒツジと共に神への捧げ物となるヤギ。いずれにしても、長きにわたって人間と暮らしてきたためにたくさんの意味づけがなされてきたのでしょう。