Writingsコラム

暑さにも寒さにも地中熱

暑過ぎる夏にエアコンは必須となりましたが、連日使い続けると、節電という観点で不安を覚えた人も多いかと思います。またエアコンは、冬場には設定したい室温と室外の温度差が大きいため、室外機が故障することが多いのだとか。そこで密かに注目されているのが地中熱。詳細を探っていきましょう。

よく地中熱は地熱と勘違いされますが、二つは別物です。地熱は地中深く2,000〜3,000m付近にあるマグマからの熱で、200〜300℃と高温です。水蒸気を利用してタービンを回す地熱発電などに使われます。一方、地中熱は深さ100mまでの地下にある熱エネルギーで、地表の温度変化に影響されにくく、ほぼ一定の温度を保っています。東京などの首都圏では地下50mの温度は16〜17℃くらい。場所によって幅はありますが5〜15℃の範囲内です。

地中熱を利用する方式はいろいろありますが、商業施設やマンション、一般住宅などではヒートポンプ式が一般的です。地下水を汲み上げ、夏は冷房、冬は暖房に使います。他に、地中から伝わる熱を直接利用する熱伝導式、空気を循環させる方式などがあります。

実は地中熱は縄文時代から利用されていました。竪穴式住居は地面を掘り下げて地中の熱を利用する熱伝導式です。掘り下げた地面に建てられた室(むろ)やワイナリーに食料やワインを保存するのは昔から行われていましたから、外気温の影響を受けにくいということは経験的にわかっていたのでしょう。

現在、地中熱の利用は次のフェーズに入ろうとしています。地下水や地中熱そのものを利用するだけではなく、現状あるエアコンの室外に冷媒をプラスし、地中熱を循環させるという方式です。山梨大学の舩谷俊平准教授は2025年の夏、地下2mに冷媒を埋め込むだけどいう簡単な工事で地中熱エネルギーを利用する実験を行い、冷房効率を20〜30%アップさせました。この方式は浅い位置で触媒を埋めるため、コストは従来の50分の1。来年の夏以降、実証実験を兼ねた製品をリーズナブルな値段で販売予定しているそうです。

地下水を利用したシステムは地盤沈下の恐れがあるため、地域によっては規制されている場所もあります。地下水の流れが早すぎても熱エネルギーが蓄えられないので、利用に適しません。こうした短所を克服するために、汲み上げた地下水を循環させて減らさない耐水槽蓄熱(ATES)システムもあり、東京スカイツリーや羽田空港第3ターミナル、横浜市役所、グランフロント大阪などで利用されています。

再生可能エネルギーを推進するのは世界的流れで、地下熱は太陽光、風力、水力以外に大きな可能性を秘めた存在として注目されています。地中の熱なので天気に影響を受けないのも利点の一つです。環境省だけではなく、東京都をはじめとした自治体も、地下熱を利用できる地図を作成するなど、利用促進に力を入れています。幸いにして日本は地下水が豊富で掘削技術も優れているため、これからもっと地下熱利用が進んでいきそうです。

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