Writingsコラム

選択肢を持つこと(1)

今回もリンダ・グラットン教授とアンドリュー・スコット教授(ロンドン・ビジネススクール)の『ライフ・シフト ― 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)で印象的だった記述について考察してみます。

同書では、今後の平均寿命が100年になることを前提に、長寿時代における働き方や人生設計のポイントが示されています。世代別(1945年生まれ、1971年生まれ、1998年生まれ)のシミュレーションが展開されており、各世代の年齢ごとに単純化のための仮定や条件が置かれてはいますが、それぞれがどんな人生を歩んでいきそうかとてもイメージしやすいです。

その中で一番若い1998年生まれの例では、「人生がマルチステージ化する可能性が最も高く、キャリアチェンジに伴う移行期も複数になるので、選択肢をたくさん持つこと自体に価値があり、就職、結婚、出産といったイベントに関わる選択を先延ばしにする傾向も生じる」ということが述べられています。

その予想の正否はともかく、不確実性が大きい状況下で次のステージに移る意思決定を適宜重ねなければならない人生においては、選択の幅を狭めると現状を変えにくくなるというのはその通りだと感じます。何が起きるか分からない長い人生では、意思決定を縛るような制約や背負っている物事が少ない身軽なスタンスの方が望ましいという主張も理解できます。

例えば、物理的にモノを多く買って所有していても、相応に管理やメンテナンスをしないとだんだん痛んできますし(手入れには時間や費用を要します)、移動や引っ越しをしなければならなくなると運搬費用も生じます。その意味で、所有物の量は移行期における意思決定に少なからず影響を与えそうです。また、住宅や教育など何らかのローンの返済があると、キャリアチェンジのために1〜2年間仕事をせず自分に再投資しようと思っても簡単にはいきません。その場合は、当面の生活費の目処と家族の理解、再投資後の明るい見通しが必要です。

長寿になればなるほど、選択肢を持つこと自体の価値も変わっていくということが言えるでしょう。
(次回につづく)

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