Writingsコラム

「陰徳」について(1)

「情けは人の為ならず」や「三方よし」など、コミュニケーションにまつわる格言や名言、ことわざ等をビジネスの場でもしばしば耳にします。また、生き方や働き方を指南する文献や、優れた実業家が残した著作や伝記で、徳や品性のあり方、運気の捉え方に言及しているものも多いです。

以前、日本経済新聞の朝刊で、伊集院静著『琥珀の夢』が連載されていましたが、全編を通して「陰徳」という言葉が大変印象に残りました。

陰徳とは、徳を積む行為、つまり他者への親切のような何か利他的な善行をしたとしても、それを決して誇示せず、ただただ相手に渡すのみ、黙って行うのみで執着しない、自慢など絶対にすべきではないという行動指針です。善行を触れ回ったり、褒められたいと考えた時点でその行為は自らのためであり、価値が失われるというものです。

人には承認欲求がありますので、何か良いことや人助けをすると、つい誰かに言いたくなったり、それとなくアピールしたくなったりします。世話を焼いた行為がそもそも自発的であったとしても、お礼や感謝の言葉が聞きたくなったりもします。それはどうやら承認欲求が満たされると快の感覚が得られる脳の報酬系に起因しているようですが、見返りを意識してアピールの度が過ぎると、ありがた迷惑、余計なお世話だと相手に思われてしまうこともあるので要注意です。

一方、陰徳は、人に知られることなく徳を積む行為を意味します。善行が公になる陽徳が一代限りの運気に関わるものであるのに対し、陰徳は子孫の運気にまで影響を与えるのだそうです。『琥珀の夢』には、主人公が実践した陰徳を積む実直な生き方と、それを受け継いだ子孫の繁栄とが描かれています。(次回につづく)

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