Writingsコラム

「陰徳」について(2)

伊集院静著『琥珀の夢』は事実に基づいた小説です。のちに日本に洋酒文化を根付かせたと目されるようになる企業を創業した主人公は、信じていた者からの裏切りや大切な家族との悲しい別離、戦争による工場の焼失、多大な先行投資がなかなか実を結ばないなど幾多の苦難を乗り越え、幼少の頃に抱いた夢を実現させました。

そして現在、子孫が受け継いだ同社はグローバルに事業を展開し、成長を続けています。

人生の成功をどう捉えるかは人それぞれですが、主人公の生き方や仕事との向き合い方に通底している陰徳の行動(幼少期にお母様から説かれたそうで、誰かが困っていると率先して手を差し伸べています)が、その後の子孫と会社の繁栄の礎になっているような気がしました。

ところで、人間には合理的で利己的な面があります。数万年かけて生物間の生存競争に勝ち抜き、何度も戦争を繰り返しながら文明を築いてきたわけですから、経済学が前提としているように効用(満足度)を最大化するために行動する姿勢を当然持っています。

ただ、不思議なもので、因果応報という言葉が意味するように、他者を踏み台にしてのし上がった人はいずれ必ず誰かから踏み返され、その地位から引きずり下ろされて没落する定めにあるようです。そういった顛末を物語る史実が数多く残されているのがその証左であり、人生の意味や深淵さについて考えさせられます。(次回につづく)

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