Writingsコラム

水族館とイルカ

元気に水飛沫を上げるイルカたちの姿は、夏を象徴する光景の一つです。イルカショーは季節を問わず水族館で人気を博していますが、今は将来的に存続できるかどうかの瀬戸際だとか。イルカの飼育から、水族館を取り囲む諸事情を知っていきましょう。

日本の水族館は1882年、東京・上野動物園の一角に観魚室ができたことから始まります。5年後の1897年、神戸に循環濾過装置が備わった和楽園水族館が誕生し、以降、全国に水族館が続々とオープンしていきます。が、日中戦争以降、ほとんどが閉館してしまいます。戦後、1950年代の高度経済成長期を迎えると、再び水族館建設ブームが到来。イルカショーが始まったのは、この時代、1957年江ノ島マリンランド(現・新江ノ島水族館)からです。1990年のバブル期には大規模水族館が建設され、日本の水族館の数は世界1位へ。2021年の時点で約150施設あると言われていますが、大小様々なタイプの水族館があるため、正確な数は専門家でも把握しきれていないようです。

実は水族館の施設は30年で建て替えが必要です。改修を機にイルカショーを辞める水族館のニュースが2020年前後に流れ、続けてほしいという声もたくさん聞かれました。一方で、イルカショーはイルカに負担をかける行為だという声もあり、欧米ではショーだけではなく、イルカの飼育も廃止する流れが加速しています。2004年に世界動物園水族館協会が(WAZA)が「追い込み漁をして捕獲されたイルカを受け入れてはならない」という決議を採択しました。日本動物園水族館協会(JAZA)は一時期抗議をしたものの、2015年に決定に従ったため、以降、国内ではイルカを人工繁殖で増やしていく方針に切り替えています。

しかしイルカは人工繁殖が非常に難しく、出産後1年内の生存率は20%。また、人工繁殖を行う際には遺伝的多様性も確保せねばなりません。活発なイルカをケガなく移動させる負担も大きく、費用面も問題になっています。以前より、多数のイルカの繁殖を成功させていた千葉県の鴨川シーワールドでは、種の違うバンドウイルカとカマイルカを交雑させないようにプールを分けたり、母子が一定期間一緒にいられる配慮をするなどしていましたが、規模の小さい水族館ではここまでのきめ細かい対応は不可能だと、諦めることも多くなっています。

困難ではあるものの、繁殖を試みる水族館は協力しあって、次世代に命を繋げていこうとしています。最適な繁殖方法の情報共有をしたり、水族館同士でイルカのレンタルを行うなど、密に連絡を取り合っています。輸送の必要がないためにイルカの体にかかる負担が少なく、多様性確保ができる人工授精の研究も進んでいて、現在は国内8水族館が取り組んでいます。

1980年代、水族館ではラッコブームが起きました。ピーク時に国内で飼育されていたラッコは122匹いたのですが、現在は3匹。1998年から個体数の激減を理由にラッコの輸入が禁止された影響が大きかったのですが、飼育・繁殖が非常に難しいという面もありました。絶滅危惧種に指定されたラッコは、三重県・鳥羽水族館に2匹、福岡県・マリンワールド中道に1匹で、いずれも高齢化しているようです。

私たちは水族館を訪れ、動物や魚たちに癒しや元気をもらっていますが、バックヤードでの飼育スタッフの努力があることを忘れてはなりません。言葉を話すことない動物たちの本当の気持ちは分かりませんが、水族館にいるからには、できる限り健康で長く生き続けてほしい。そう思う人間側の気持ちは、誰もが抱いていることなのではないでしょうか。

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