Writingsコラム
森と人間とジビエ

最近よく聞くジビエ。狩猟で得られた野生鳥獣の肉を食べることで、フランス語です。フランスでは狩猟地を持つ王侯貴族が、狩猟の獲物を料理として楽しんでいたことから、特別な料理でした。フランス以外でもジビエは秋から冬にかけて、ヨーロッパでよく食べられる食肉で、シカやイノシシ、キジなどが、学食や病院などでもごく普通に提供されているというメジャーな食文化です。
日本では狩猟解禁期間の11〜2月がジビエのシーズンとなります。シカ、イノシシなど、狩猟地近辺で郷土料理として楽しまれていましたが、近年、都市圏のレストランでも扱われるようになりました。これは農林水産省が野生動物の森林食害対策の一つとして、ジビエの加工施設に補助金をつけたり、販路拡大にジビエ料理コンテスト推進などPR活動を行なったことも大きく影響しています。
環境保護という観点から、食害被害が大きいシカやイノシシをジビエとして消費することで、森林を保護しようという動きですが、狩猟者の高齢化と減少傾向、天敵であるニホンオオカミの絶滅、耕作放棄地の増大や、増殖林の遅れなど、問題は数多くあります。処理施設の不足から、捕獲されても廃棄する量もまだまだ多いといいます。消費者から野生生物は臭みが強いと敬遠される傾向もあります。
しかし日本人の食への探究心は高く、さまざまな困難を乗り越えようと企業努力が続いています。佐賀県の株式会社鶴商興産では、佐賀県産のイノシシ肉だけを使った「さがジビエソーセージ」を発売。無添加・無着色にこだわり、特有の臭みもなく、野生みある肉の味わいが好評です。長野県ではジビエの美味しさを伝えることができる料理人を「信州ジビエマイスター」として認定し、レストランや食品加工会社がメニュー開発に取り組んでいます。
他自治体でも様々な取り組みがなされ、一般家庭でも通販という形でジビエが手軽に手に入るようになってきています。外食産業の中でも人気の高い焼肉店で、ジビエ専門店が目立って集客するなど、マーケットは広がってきています。
野山を駆け回った野生動物の肉は、脂肪が少なく、引き締まっており、栄養価も高いようです。力強く、生命力に溢れた肉の味を、ヨーロッパ並みに気軽に味わえる日が来るのは近いかもしれません。