Writingsコラム

インド人は牛肉を食べない?

インドにはビーフカレーがないと言われていますが、実はインド人だからといって絶対に牛肉を食べないというわけではありません。牛肉を食べるインド人もいるという理由を、順を追って説明していきます。

近年、経済発展が著しいインドは、2025年にはGDPが日本を抜いて世界4位になると言われています。人口の方は2023年時点で14億2,577万人となり、中国を追い越し、すでに世界1位です。宗教は、ヒンドゥー教徒が79.8%と人口の八割ほどを占め、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.8%、シク教徒1.7%、仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%(※)という構成になっています。

さて、インド人が牛を食べる、食べない問題ですが、ヒンドゥー教徒は牛を神聖な生き物と考えているため、食べることはありません。一方、イスラム教徒は豚肉を食べませんが、牛肉は食べます。シク教徒は基本的にベジタリアンで、ジャイナ教はチーズやヨーグルトなどの乳製品だけ食べます。というわけで、牛肉を食べるのはイスラム教徒、キリスト教徒、仏教徒で、合計17.7%の人々、つまり2億5,236万人ほどのインド人になります。

インドの人口の8割を占めるヒンドゥー教徒は、牛に限らず殺生を嫌う傾向があり、ベジタリアンも多いものですが、若者を中心に「そうは言っても肉が食べたい」という気持ちはあり、動物性タンパク源として鶏肉を食べる人口が増えていっています。イスラム教徒も鶏肉は食べますから、1980年代以降、鶏肉の生産量と消費量が増えることになりました。この現象を鶏肉の色になぞらえ、ピンク革命と称されています。

ピンク革命以前に、インドでは緑の革命と白い革命がありました。1940〜60年代に穀物生産量が増えたことを緑の革命、1970年代から牛乳の生産量が増加したことを白い革命と言います。日本と違ってインドの食料自給率は高く、GDPの17%を農業が占めています。特に穀物では自給率110%。国内産業を守るため、精米に70%、玄米などには80%と関税が高く設定されています。

日本のどこの街でも見かける、ふかふかのナンとカレーがセットになったインドカレー店のオーナーは、インド人ではなくネパール人の場合が多いことをご存知でしょうか。ヒンドゥー教徒のインド人は身分で職業が決まるカースト制に縛られているため、コックはコックの仕事しかしないので、食器洗いや店内の清掃、配膳など職種の垣根なく働くことができるネパール人が重宝され、従業員数が増えました。彼らが独立する際、ナンとカレーのセットというインド料理店の成功フォーマットを継承したため、小規模で同じようなメニューのカレー屋が乱立していったようです。

カースト制度が定められた時代にはなかった職業であるため、カーストに縛られている人たちが将来への活路を見出しているのはIT分野です。またインドは200にも及ぶ多言語社会ではあるものの、第二公用語が英国植民地時代の影響で英語となっています。多くのプログラミング言語のベースが英語のため、必然的にエンジニアが多くなりました。日本でも活躍しているインド人エンジニアですが、日本のインド料理店に入ると、ナンとカレーの味の違いに驚くそうです。日本のカレーには鶏肉よりも牛肉が入っている方が高級だと聞いたら、もっとびっくりするかもしれません。

※2011年国勢調査(外務省/インド共和国基礎資料)による

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