Writingsコラム
琵琶湖を抱く滋賀県

滋賀県といえば日本最大の湖、琵琶湖をまず思い浮かべます。鈴鹿山地や伊吹山地などから、近江盆地にある琵琶湖に約450本の河川が流れ込み、瀬田川(せたがわ)として海へと流れていきます。そこから各地域で宇治川、淀川と名前を変え、大阪湾へと至ります。滋賀県人が大阪や京都の人たちにマウントを取られた時に「琵琶湖の水止めたろか」と脅す冗談があるほど、豊富な水量を誇る琵琶湖は周辺の人々に水の恵みをもたらしています。滋賀県人の心の拠り所でもある琵琶湖について、少し探っていきましょう。
まず、琵琶湖の水の流れを止めてしまったらどうなるか、に関してですが、残念ながら実行すると滋賀県は水没してしまいます。瀬田川からの流出量をコントロールする瀬田川洗堰(せたがわあらいぜき)は、滋賀県ではなく国が管理しています。仮に瀬田川へ流れる水を完全に止めると、淀川の水量は3分の1まで減少してしまいますが、滋賀県の方は増水した琵琶湖の被害を受け、甚大な損害が出てしまいます。
一方で、琵琶湖の水を水道水として使用している京都市は、滋賀県に「琵琶湖疏水感謝金」を年間で2億3,000万円支払っています。滋賀県大津市から京都市伏見区まで水を運ぶ琵琶湖疏水(そすい)は1890年に第一疏水ができ、さらに延伸した第二疏水は1912年に完成し、疏水の水を利用した水力発電の設置によって、衰退していた京都の産業の再興の大きな助けとなり、京都の水不足解消にも役立ちました。現在も水道は京都市民に利用されています。
京都市は1914年から「水利使用料」を支払い始めました。戦後1947年からは「琵琶湖疏水感謝金」として支払続け、琵琶湖の自然保護の一助となっています。現行の法律では、水源から流れてくる水に対して、利用自治体が水源の自治体に使用料を払う必要はありませんが、今でも支払い続けているのは、京都市民の感謝の気持ちが込められているからだそうです。ちなみに琵琶湖疏水の管理は京都市が行っており、滋賀県がこの水を止めることはできません。
琵琶湖は今から約400万年前にフィリピン海プレートの影響で出現しました。このプレートの動きで日本列島は曲がった形になったそうです。その後、プレートの動きのせいで地盤沈下が起き、湖は移動していき、40万年前くらいに現在の琵琶湖の形になり、その位置に落ち着きました。一般的に湖は土砂の堆積によって1万年程度で消失してしまいますが、琵琶湖は10万年以上の歴史を持つ古代湖で、そのうち固有種がいるのは20程度。世界でも稀な湖なのです。
固有種は、ビワマスやビワコオオナマズなど魚は17種。貝や昆虫などを含めると62種。他、1,700種以上の動植物が生息しており、水生生物の宝庫です。滋賀県はビワマスをはじめとした魚のブランド化を進めており、「琵琶湖八珍」として8種の魚を使った料理や土産物化を推進しています。
参考までに、琵琶湖は年に3センチほど動いているようです。あと100万年すると若狭(わかさ)湾とつながるらしく、そうなった時には、日本列島は東西に分裂すると言われています。日本の命運は、実は琵琶湖が握っているのです。ただし100万年後のことですが。