Writingsコラム

与件を捉えること(1)

ビジネス書やコミュニケーション関連の書物にしばしば、「相手の行動は変えられないのだから、自分の行動を変えることが問題解決への道です」「自分ではどうにもならない事象に腐心して思い悩むのではなく、まずは裁量の余地のあることに目を向け、とり得る行動を模索しましょう」といった記述があります。

経験上、その通りだったというケースが多く、上記のような考え方は、社会生活と個人生活を問わず、仕事や人間関係全般において有益だと改めて思います。下手にジタバタすると事態をこじらせる場合があります。そんなときは問題から少し距離を置き、俯瞰して客観的に捉えると打開策が見えてきたりします。

ところで、経済学に「与件(所与の条件)」という概念があります。経済学の大家、シュンペーターは、経済現象を「経済の外的諸条件の変化によって影響を受ける部分」とそうでない部分、つまり、純粋に経済的な部分とに分けて捉え、外的な諸条件(人口、欲望状態、技術、政治等々)を与件とし、それらが変化すれば経済も影響を受ける一方、与件は一定である、すなわち与えられている条件なので、個々の経済活動は与件に対して影響を及ぼせないと論じました。

上記を平易に換言してみると、経済学では、我々個人は消費者として与えられた諸条件のもとで効用を最大化するために製品やサービスを選択し(あるいは、ある対象について意思決定を行い)、一方、企業も与えられた条件のもとで(与件を一定と仮定した上で)、利潤を最大化するために事業を展開すると考えます。(次回につづく)

参考:J.A. シュムペーター著『経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉』(岩波書店)、『日本大百科全書』(小学館)。

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