Writingsコラム

屋外広告の現在地

ネットやテレビなどメディアを通して受け取るコマーシャル、店舗内で目にするPOPや什器を利用しての屋内広告など、広告には様々な手段があります。中でも屋外に設置された看板や壁面を利用したものを屋外広告と言います。昔からあり、オーソドックスな広告手段とされる屋外広告ですが、その長所が見直され、新たな様相を見せ始めているようです。

日本の屋外広告は、奈良時代には存在していました。店の前に立て看板を置いたり、路地奥の店のありかを示す案内板などが、平城京に設置されていたようです。ただ、こうした庶民の記録はあまり残っておらず、はっきり確認できるのは江戸時代の浮世絵からです。呉服を扱う越後屋が現金商いを表看板に記し、屋号を染め上げたのれんが店先に揺れている光景は、歌川広重や葛飾北斎の作品でよく知られています。

パリの街を歩くと、路面に設置された優美な広告塔コモン・モリスが目につきます。1868年、劇場などの印刷権を持っていたモリス社が、各々勝手に貼って景観を汚していた劇場の公演ポスターやチラシを1箇所にまとめたのが始まりです。2006年のパリ市の広告禁止令により、コモン・モリスの数はだいぶ減りましたが、パリという独自の舞台で光る名脇役として絶妙な存在感を放っています。

屋外広告といえば大きな看板、ビルボードを思い浮かべる方も多いでしょう。ニューヨーク・マンハッタンのタイムズスクエアに連なる数々のビルボードはアメリカを象徴するような存在ですし、日本でも人や車が行き交う場所には必ず設置されているお馴染みの広告です。動画を放送できる屋外ビジョンと共に、そのインパクトは絶大で、目立つ、話題になる、いやでも目に入るというメリットがあります。

ただ、迫力がありすぎることがデメリットになることもあります。都市の景観を壊すという意見もあり、地方によっては条例で規制されていることもあります。有名なのは京都市の景観規制で、大きさや色が細かく定められています。

今は印刷よりも動画が流せるデジタルサイネージ広告が採用されることが多く、傾向としては画面を高くするよりも、長くする方向に向かっているようです。東京・新宿JR駅にある新宿ウォール456は名称通り壁面が45.6m続き、世界最長。大阪・地下鉄梅田駅のメトロ梅田ビジョンは40mと、こちらも長い。ここで公開される人気アニメやアイドルの広告を見るために訪れるファンも多くなっています。

デジタルサイネージを個々のスマートフォンで撮影することで、ゲームを楽しむことができたり、限定情報が得られたりする、参加型の販促活動や広告も増えました。デジタルサイネージからの展開は、新しい組み合わせの宝庫であり、独自のアイディアを活かせる分野であるともいえます。

コロナ禍を経て、人々のつながりや空気感を共有することの意味合いが強まりました。その時、その場所にいなければ感じられない屋外広告が、デジタルという手段を使って進化するのは必然なのかもしれません。

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