Writingsコラム

和歌山県新宮市に残る徐福の伝説

和歌山県新宮市は、世界遺産で有名な熊野信仰始まりの地とされる熊野速玉大社がある場所です。巨石を抱く神倉山は、熊野の神々が舞い降りたと言われ、古の社は神々が作ったとされています。そんな神々の伝説がある新宮市には、もう一つ「外からやってきた人たち」の話があります。

紀元前3世紀、秦の始皇帝に、神術を行う方士として、徐福はとある具申を行いました。「東方に三神山(蓬莱/ほうらい、方丈/ほうじょう、瀛州/えいしゅう)があり、霊薬(不老長寿の薬)があります」と言ったところ、始皇帝の許可が下り、軍資金(財宝)とイネを含む五穀の種、農耕機具や技術者、童男童女が与えられたとか。結果、このプロジェクトの一団は、数百から数千といった、かなりの規模になったようです。

どうやら薬草や医術に詳しい徐福としては、不老不死の薬は存在しないと、早々に見切っていた模様です。が、不老不死にこだわる始皇帝は、制圧した地からそれらしい薬を集めさせ、効果がないとわかると処刑するなど、厄介で危険な暴君となっていました。そんな秦から逃れたいという人々を集め、薬を探すという名目で脱出したようなのです。一団は蓬莱(新宮市)に到着し、そこで暮らし始めました。上陸したのは熊野川河口付近で、阿須賀という地名と神社が残っています。

秦から人がやって来た証拠として、新宮市では、この時代に鋳造された半両銭(はんりょうせん)が発見され、当時のものであるという鑑定が出ています。徐福が使ったとされる、生薬を混ぜるすり鉢が、蓬莱山・阿須賀神社の中にある徐福の宮に御神体となっていたり、徐福自身の墓と伝わるものもあります。こうした伝説や物的証拠から、現在、周辺は徐福公園として整備され、徐福から伝えられたという生薬を使った入浴剤や石鹸などが土産として売られています。

蓬莱は、古来の神仙思想にもとづけば、不老不死の薬を持つ仙人が住む山なのですが、実はこの名をもつ山は、日本中にたくさんあります。熊野三山は蓬莱、方丈、瀛州の三神山に見立てられており、修験の山として崇められています。滋賀県大津市にある蓬莱山は、ここを含む比良山地も熊野三山同様、修験の地だったため名付けられたようです。9世紀末ごろに書かれた「竹取物語」に出てくる蓬莱は、富士山のことではないかと言われています。時代を経ていくにつれ、蓬莱は霊山や仙郷の異称と変化したのです。ちなみに新宮市にある蓬莱山は標高38mのかわいらしい山ですが、蓬莱山・阿須賀神社の一部として長く人々に崇敬されています。

徐福が立ち寄ったという伝説が残る土地は、隣の三重県熊野市をはじめ、福岡県、佐賀県、長野県など全国に多数あるので、彼らは住むのに適した土地を探して各地を探索していたのでしょうか。もしくは本当に不老不死薬を探していたのかもしれません。

徐福の不老不死薬探しの旅は、クリエイターの創作心をそそるらしく、小説では今野敏や京極夏彦、漫画は諸星大次郎に本宮ひろ志、諏訪緑、安彦良和などがモチーフに取り上げています。不老不死というキーワードは人気アニメ「ちいかわ」などでも注目されていますので、興味のある方は、徐福伝説も探索のターゲットに含めてみてはいかがでしょうか。

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