Writingsコラム

ベーシックインカムについて(1)

人工知能(AI)などテクノロジーの進歩によって人の仕事が減るのではないかという議論が続いており、「2030年頃には現在の仕事の45%がロボットやAIに置き換えられる」というような予測や脅威論が唱えられています。

その正否はともかく、実際、大手の銀行や生損保各社がRPA(Robotic Process Automation)など新しい技術を活用し、契約書類の作成といった定型的な作業の自動化や事務処理の効率化をはかり、人員の配置転換やリストラを進めるという報道もあります。かたや人手不足が深刻な業界では、人員確保のために初任給や時給を上げ、労働条件の改善と共に営業短縮を模索する企業が増えています。

現在、労働力人口の減少と技術革新の影響により、従来の仕事、働き方と、新たなそれとの間で新旧交代が進みつつあることは間違いありません。「長らく生活の糧だった仕事がなくなったら、どうやって食べていけば良いのだろう」「貧富の格差が拡大するのではないか」という懸念に対し、解決策の一つのアイディアとしてベーシックインカム(基礎的所得)が取り上げられることが増えています。数年前まではあまり聞き慣れない言葉でしたが、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏が言及するなど、注目を集め始めています。

さて、そのベーシックインカムとは何でしょうか。ベーシックインカムとは、「最低生活保障であり、政府がすべての住民や国民に最低水準の生活を営むために必要なお金を支給する考え方、政策構想。年金、生活保護、失業保険の一部扶助、医療扶助、子育て養育給付など個別対策的に制度が分かれている社会保障を一本化して行政の無駄を省き、包括的な国民生活の最低限度の収入を補償することで、貧困層を支援する効果が見込める。一方で、勤労意欲の低下や財政の負担増を招く問題がある。(参考:2016/6/5付け日本経済新聞)」というものです。

換言すると、ベーシックインカムの目的は、日本国憲法第二十五条にある「健康で文化的な最低限度の生活」をすべての国民が営めるように、所得再分配を強化し、格差是正につなげることといえます。2017年にフィンランド政府が実験を開始するなど諸外国でも効果を見極めるための政策的な試みが進められています。ただし、当然ながらベーシックインカムにはメリットだけでなく、上記のようにデメリットも指摘されています。(次回につづく)

参考文献:原田泰著『ベーシック・インカム – 国家は貧困問題を解決できるか』中央公論新社

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