Writingsコラム
つないで祈る、パッチワーク

小さな布をつなぎ合わせて美しい模様を作るパッチワーク。ベッドカバーなどで見かける場合が多いものですが、手芸が趣味の方が「布の切れ端が余っていたから始めた」なんていうこともよくあるとか。ハンドメイドの王道とも言えるパッチワークの世界を少しのぞいてみましょう。
小さな布や皮を継ぎ合わせて大きなものを作るというパッチワークの技法は、前9世紀エジプトの葬儀用天幕ですでに取り入れられていました。この技法がヨーロッパへ伝わったのは11世紀ごろ。十字軍時代に中東のサラセン人から伝わったと言われています。17世紀にアジアの珍しい布が英国へ持ち込まれ、貴婦人たちがたしなむ手芸作品として発展していったようです。アメリカへ移住していった上流階級の婦人たちが伝え、中流階級の婦人たちも作り出すようになりました。
アメリカの中〜上流階級の楽しみとして発展していった流れとは別に、必需品としてのパッチワークの世界があります。開拓者が寒さをしのぐため、小さな布をつないで作ったパッチワークに、もう一つの布を合わせた(キルティング)ベッドカバーを作ったのがキルトの始まりです。さらにキルトは、この二つの間に薄く綿を挟んだ三層構造になることも多く、これで保温性や耐久性が高まりました。
私たちがよく目にするハワイアンキルトは、19世紀にアメリカからハワイに布教にやって来た宣教師の夫人から伝わりました。アメリカンキルトとの大きな違いは、色が2色限定で、柄はハワイの伝統的な題材を用い、シンメトリーでなければなりません。その柄の周囲にはエコーイングキルトという、水の波紋のように外側に広がっていく曲線が刺繍されています。手縫いが基本で、素材もコットン100%で肌触りがよく、仕上がったものは大抵が美麗な大作。実用品とは言い難いものですが、それぞれの家に代々伝えていく宝となっています。
日本のパッチワークは、百徳(ひゃくとく)に代表されるようです。金沢に江戸時代から伝わる子供用の着物は、100軒の家から布を貰い受け、100の徳を得るようにと縫い合わせたものです。第二次世界大戦時に盛んに行われた1,000人分の縫い目が一枚の布に集められた千人針も、兵士が無事に帰って来ることができるようにという強い祈りが込められています。
仏教では、糞掃衣(ふんぞうえ)という、捨てられた布を拾い集めて縫い合わせ、修行僧がまとう袈裟(けさ)にすることがあります。古くは聖徳太子のものとされる麻素材のもので、国宝となって東京国立博物館に収蔵されています。残っている糞掃衣は大半が絹製で、多くは身分の高い人が願いを込めて作成し、寺に寄進したもののようです。
長い時間をかけ、1針ずつ縫って作られるパッチワーク。余った布を組み合わせるというエコなスタイルや、長く使い続けていくサスティナブルな部分も注目されており、今、新たな視点で見直されています。パッチワーク作品に出会ったら、その手蹟をよく鑑賞してみてください。同じものが一つもない、多種多様な世界が広がっています。