Writingsコラム

人的資源で企業の将来性を測る

人的資本に関する情報開示の義務化が始まっているのをご存知でしょうか。経営や財務に関わっていないと、具体的に何がどうなって、どう変わるのか、わかりにくいかもしれません。基本的な考え方を解説していきます。

まずは似た言葉である人的資源と人的資本の違いをはっきりさせておきましょう。人的資源(Human Resource)とは、経営者が従業員の持つスキルや能力を企業のために活用するという考え方です。新しく情報開示が求められている人的資本(Human Capital)は従業員が持つ技術や知識を、企業の資産として位置付けています。人材にお金をかけて価値を高めると、企業の資産価値が上がるという財務的な考え方です。

企業の資産は、製品を作る設備や権利などの「モノ」、運営していくために所有している「カネ」、経営を進めるために必要な「情報」があります。これら3つを総合的に使いこなすのが「人」です。新入社員が研修や実践を通して成長し、業務範囲が増えていけば、売上アップにつながります。そうした人材に「投資」をして、かけがえのない財産にする。財産であるから有価証券報告書に記載するべきであるという考え方は、2001年OECD(経済協力開発機構)によって「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に備わったもの」と定義されました。

2018年にはISO(国際標準化機構)がISO30414でガイドラインを示し、2020年にはSEC(米国証券取引委員会)がルール化しました。日本でも2023年決算期から有価証券を発行している約4,000社に対し、人材育成や多様性、コンプライアンスなど7分野19項目(※)を有価証券報告書に記載することが義務となっています。非上場企業や店頭登録されていない企業は義務を免れていますが、企業規模が小さくとも国内外から多くの投資を必要とするならば、海外投資家の判断基準の一つとなっているため、記載を回避することは可能性を潰していることに他なりません。

記載事項19項目の中で、少々わかりにくいのがエンゲージメントかもしれません。これは従業員の会社に対する愛着心を示し、企業が働きやすい環境を整えるなど人材に投資することで、従業員の愛着心は強まります。Engagement本来の「誓約」や「つながり」を示す意味合いよりも、より良い企業と従業員の関係性といった方がいいかもしれません。昔は愛社精神などとされていましたが、投資家視線で捉え直すと、働き方の満足度のような数値が求められています。

多様性については、女性管理職を増やす、男女の給与体系の差や男性社員の育児休業の取得率、正社員と非正規社員との格差の解消など、わかりやすい部分もたくさんあります。2022年ジェンダーギャップ指数で146カ国中116位の日本にとっては課題が多い項目ではありますが、大企業が積極的に取り組むことが社会にとっての牽引力となりそうです。

人的資本は投資家にとっての企業の将来性の判断基準です。世界基準を満たす数値が求められていることを覚えておきましょう。

※人的資本の情報開示で求められる7分野19項目
1 人材育成
・リーダーシップ
・育成
・スキル・経験
2 エンゲージメント
・従業員満足度
3 流動性
・採用
・維持
・サクセッション
4 ダイバーシティ
・ダイバーシティ
・非差別
・育児休業
5 健康安全
・精神的健康
・身体的健康
・安全
6 労働観光
・労働観光
・児童労働/強制労働
・賃金の公正性
・福利厚生
・組合との関係
7 コンプライアンス/倫理
・コンプライアンス/倫理

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