Writingsコラム
書道の世界

書道のイメージは、ここ20年ほどで大胆に変化しました。きっかけは、愛媛県立三島高等学校書道部がショッピングモールなどで音楽に合わせて歌詞を大きな紙に書いた「書のデモンストレーション」。後に書道パフォーマンスと呼ばれるようになった同校書道部の活動は好評で、テレビ報道やドラマの題材にされ、日本全国にブームを引き起こしました。改めて、過去の歴史を遡りながら、書道の世界を垣間見てみましょう。
書道の始まりは古代中国です。紀元前3,000年ごろから中国で文字が使われはじめ、祭祀や儀式で美しい文字を書くことが求められました。この頃は、文字を書くこと自体が神聖なものとされていたのでした。
日本に文字が伝わったのは弥生時代。初期書体である篆書(てんしょ)が古墳などに刻まれています。文字が本格的に伝わったのは飛鳥時代で、仏教や儒教の経典から。広く仏教を伝えるためには、経典を書き写さなければなりません。こうした写経には篆書は不便であったため、隷書(れいしょ)が生まれました。その後、書体は草書、行書、楷書と広がっていき、平安時代には美しい文字と和歌が組み合わされ、貴族文化として定着しました。
書道に流派が生まれたのは室町時代です。平安時代に能書家として知られた小野道風、藤原佐理、藤原行成が三蹟(さんせき)として名声を博しました。この中の一人である藤原行成から、世尊時流、法性寺流、青蓮院流、持明院流という4派に分かれます。中でも青蓮院流は、江戸時代になる頃には庶民まで広がるような流派となります。
書のための道具として硯(すずり)と墨は必須です。貴族文化として発展していった書道ですから、必要とされる層に向け、高級な物もたくさん揃っています。硯は中国・広東省肇慶(ちょうけい)で採取される、紫を基調とした石でできた端渓硯(たんけいけん)が最高の硯と言われています。宋代にブランド価値が確定し、皇帝への献上品として使われていました。端渓硯は硬度が低く、粒が極めて細かいため、この硯ですった墨は伸びがよく、発色に優れ、書き心地抜群なのだとか。目のような石紋があるものや、凝った彫刻が施されたものもあり、美術品としても価値を備えている硯もあります。年代物で300万円を超える逸品もあるそうです。
墨の品質は、職人の技量次第で良くも悪くもなると言われています。粒子が細かく、根底の赤みが強いものが高級品。さらに薄墨で透明感を打ち出せれば極上品となります。また、原材料も価格に影響します。学校の授業で使われる大量生産の墨は煤(すす)から作られ、井草など植物を菜種油で燃やした手焚き油煙、純植物性松煙と、材料が限定されるほど価格が高くなっていきます。
文字は個性が出やすく、アートとしての面白みも出てきます。学校の授業では一律に手本通りに書くことが求められていましたが、書道教室によっては自由に書いてもいいというところもあります。実は今、書道は子供の習い事だけではなく、大人にも密かな人気となっています。オンライン授業の教室もあり、誰もが気軽に試せる時代になりました。100円ショップで基本的な道具は揃うので、久しぶりに書道を再開してみませんか。