Writingsコラム

馬から生まれた幻想の生き物

馬と人との関係は5,000年ほど前に始まり、輸送や耕作に使われるなど、今も昔も親しい存在であり続けています。身近にいるためか、想像力も刺激してくれたようで、空想上の生き物、幻獣のモデルとして、物語やアート作品で活躍しています。ペガサスやユニコーンなど、いくつかの例をご紹介しましょう。

まずは翼を持つペガサス。かなり出自がはっきりしている幻獣で、父は海神ポセイドン、母は髪の毛が蛇で見た者を石に変えてしまう怪物メデューサとの間にできた子供だとギリシア神話で語られています。英雄ペルセウスがメデューサの首を切った際、切り口から生まれました。大地を蹴ると、清らかな水が湧き出るのだとか。メデューサの絶命からペガサスと一緒に、黄金の剣を持った巨人クリュサオルも生まれ、砂漠に落ちた血はサソリに、海に落ちた血は珊瑚となったといいます。

実はペガサスには異母兄弟(?)がいるのをご存知でしょうか。ポセイドンと農耕の女神ディメーテルとの間に生まれた、アレイオン(アリオン)という言葉を話す馬です。ディメーテルが「地上で最も美しい生き物をプレゼントして」という願いにポセイドンが応えた結果なのですが、そこに至るまでラクダやカバという「失敗作」を生み出したという話もついてきています。

螺旋状の長い角を持つ幻獣ユニコーンは、出自がはっきりしていません。インドやローマの言い伝えや、中世ヨーロッパの書物「動物寓意譚」などに、それらしき存在が示されていますが、具体的なイメージはフランスの小説家フローベールが1874年に刊行した「聖アントワーヌの誘惑」から。美しい角を額に生やした美しい白馬をユニコーンと表現したことから、姿形が確立されました。

ユニコーンの性格は極めて獰猛で、誰も近づけないのですが、唯一心を許すのが「処女」。ゆえに純潔や貞操の象徴を表しますが、もし処女だと嘘をつくと怒って暴れるため、憤怒も象徴します。この気難しい生き物を手なづけるのは偉大ことだと、ヨーロッパでは紋章に使われ、代表的なものではスコットランド王家を表します。1707年の連合王国成立後は、イングランド王家の紋章ライオンと並んで盾を支えていますが、左側に置かれたものの方が上の序列という紋章配置の法則のため、ライオンが上位になります。マザーグースの歌にも「ライオンとユニコーン 王冠かけて争った ライオンがユニコーンを打ちのめし 街中を追いかけまわす」と歌われているように、スコットランド王国が併合されたことを示しています。

他にも北欧神話では主神オーディンが乗る軍馬スレイプニルは8本脚で地上と死者の国を行き来することができたという話です。インド神話に出てくる空飛ぶ馬ウッチャイヒシュラヴァスは、7つの頭がある白馬。雷神インドラの乗り物です。他の神も空飛ぶ馬を従えていて、インド神話には空飛ぶ馬が様々な姿で登場します。

中国でも天を駆ける馬は天馬、龍馬と呼ばれ、数々の神話に登場します。また、麒麟(きりん)も馬の要素を持つ幻獣になるかもしれません。ただし麒麟は、蹄は馬のものですが、顔は竜に似て牛の尾と角を持ち、毛は黄色で鱗があるという不思議な生き物です。日本ではキリンビールのラベルで親しまれています。

このように馬から生まれた幻獣は世界各地に息づいており、様々な作品のモチーフにも使われています。ユニコーンやペガサスを描いた絵画はルドンやモローが有名ですが、他にもたくさん存在するのはご存知の通り。馬をモチーフにした幻獣の種類は豊富ですから、それをテーマにアートやエンタテイメント作品を探っていくのも面白そうです。

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