Writingsコラム

グループシンク(集団思考)を防ごう

意思決定を行う会議の席で、明らかに間違った方向に向かっていき、誰も止めることができないという現象が起こることがあります。それはグループシンク(group think)と呼ばれ、集団思考と訳されています。愚かな決定を下してしまうことから、集団浅慮という訳語もあり、個人で考えるよりもはるかに非合理的で極端な結論に達することが多くなっています。

このグループシンクという概念は、アメリカの心理学者アーヴィング・ジャニスが1982年に提唱しました。彼はアメリカ政府が行った外交・軍事政策の中で、とても合理的とは言えず、失敗に終わった事例を研究し、現場の状況に共通性がないかを調査。ケネディ政権のキューバ・ピッグス湾事件やニクソン政権のウォーターゲート事件の顛末、日本軍の真珠湾攻撃時のルーズベルト政権の過小評価、朝鮮戦争における中国の参加を考慮に入れなかったトルーマン政権などが研究対象に選ばれています。

研究結果は「集団思考の8つの兆候」としてまとめられました。「失敗しても集団は不死身であるという思い込み」「自分たちが属する集団と感情を共有しない者は全て敵とみなす」「他人への責任転嫁を合理的だと思う」「集団のモラルを設定し、深く検討しないで鵜呑みにする」「集団に波風を立てないように個人が自己検閲する」「反論を許さない」「反論を言いそうな人に圧力をかける」「新メンバーが入るときは自分たちと同じ見解なのかチェックする」と、怖いけれども案外ありがちな人間心理の罠を突き止めました。

この研究を参考に、アメリカ政府や企業は、意思決定を行う幹部をあえて出席させない、斬新なアイディアが出やすい環境を整える、性別や人種間の多様性を重視する、組織の透明性を高める等、集団思考に陥らない環境づくりに努めていこうとしました。ですが、1986年にはスペースシャトル・チャレンジャーの爆発事後が起こるなど、集団思考に陥った組織が数々の任務に失敗しています。もちろん、アメリカばかりではなく、世界中に集団思考に陥った組織が、数々の失敗事例を生み出しています。

対策としては、気が合って価値観を共有する人だけが属する閉鎖的な集団を作らないことだと言われています。価値観や立場が異なる人の意見は、時に感情を逆撫でされることがあります。しかし違う価値観に触れた時こそ、新しい視点が得られるものではないでしょうか。個人がそれぞれ、感情に振り回されることなく、落ち着いて、全体を俯瞰できる視点を獲得していけば、集団心理を防ぐことができるのかもしれません。

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