Writingsコラム

現状維持バイアスと権利意識(1)

既に手に入れているものや、これから容易に手に入りそうなもの。転職の決断とは、そのような既得権を捨てる覚悟を伴う意思決定です。
どんな理由であれ勤めている会社を辞めるのですから、一時的に社会的な立場を失い、収入が途絶えることを覚悟しなければなりません。
ところで、「変わりたくない」という気持ちや「もっと楽をして多くを得たい」という気持ちは、誰にでも大なり小なりあるものです。

心理面を織り込み経済活動を分析する行動経済学の研究で、人は既得の権利や将来手に入れられるであろう対象を失うことに拒否反応を示すことが分かっています(現状維持バイアス)。実験によると、それは安価なコモディティであってもだそうで、いったん手に入れた身の回りのものに執着してしまうのです。
となると、長年かけて築き上げたものや交渉を経て得たもの(例えば、職場での地位や給与水準、社内人脈など)を失うことは、なおさら辛いのかもしれません。堪え難いと感じる方もいるでしょう。
転職の決断に限らず、そのような「変わりたくない」という現状維持バイアスの心理は誰にでもあります。変わることは多少なりとも痛みを伴うので、できれば避けたいと思うのは自然なことです。
しかし留意すべきは、その変化の度合いと変化を避けることによる結果です。居心地の良い環境に身を置き、変化を拒み続けて、気づいたら茹でカエルになってしまった、というような事態こそ避けるべきです。
また、変化の度合いが激し過ぎたり、変化が急に訪れるような場合、前もって何らかの備えをしていたとしても生活できなくなることもあり得ます。例えば、会社の経営が傾いていることやリストラの可能性について、普段なんとなく考えていたとしても、いきなりそうなると経済的に困窮してしまうかもしれません。
変化に備える第一歩として、人は現状維持バイアスに縛られるという認識をもつことが大事でしょう。そして、変化の度合いとタイミングを予測し、その流れに無理せず乗れるよう日頃から心がけ、「物事は変わり得る」ということを意識するのも重要です。(次回につづく)

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