Writingsコラム

情けは人の為ならず(3)

組織内の人間関係は複雑です。社内政治や社内営業といった言葉の通り、企業が組織的な意思決定を行う際には大小様々な調整を伴います。

調整が多ければ悪く、少なければ良いというわけでもないのが難しいところで、事前的または事後的な調整を通じ、最適な意思決定に迅速かつ丁寧に至れば良いのであり、マネジメントの真価が問われます。

とは言え、企業は人間の集団ですので、意思決定のプロセスも、それに基づくチーム単位の仕事も、結局は社員同士のコミュニケーションによって成り立ちます。故に、「情けは人の為ならず」はコミュニケーションを円滑にし、組織の健全性を維持する上で優れた行動指針になります。

端的に例示すると、忙しすぎて余裕のない同僚の仕事の一部を肩代わりしてあげれば、今度は逆に自分が困っているときに助けてもらえるかもしれない、ということです。また、同僚を助ける様子を社内の誰かが見ているかもしれませんし、その同僚も「○○さんのおかげで助かった」と誰かに伝えるかもしれません。そういった共助の関係性が社内制度の有無を問わず根付いていれば、日々のコミュニケーションは取りやすいでしょう。

ただし、前回も述べたように組織が一定規模になると、どうしても組織的な利益と個人的な利益が重ならない場面が出てきます。つまり、個人的にはこうしたいという意向があっても、属す組織の方針としては望ましくないと判断されるケースがあり、また、逆のパターンもあります。

そのため、組織の事情を前提に、他者に情けをかけるかどうかも、自分が情けや恩を受けたとして報いるかどうかも、また、報いる方法やタイミングもその人の判断や行動次第であり、大げさに言えば人間性や人間力、価値観などに帰着するでしょう(集団と個人の間の葛藤は、多くの文学や小説、映画やドラマでも描かれている普遍的なテーマです)。

ところで、経済学に「外部性(Externality)」という概念がありますが、その意味は「ある経済主体(人や組織)の意思決定(行為や経済活動)が、他の経済主体の意思決定に影響を及ぼすこと」です。自分の仕事が同僚に良い影響(正の外部性)を与える場合もあれば、残念ながら悪い影響(負の外部性)を与える場合もあります。

「情けは人の為ならず」を指針とし、助け合う風土のある企業では、個々の社員は自らの仕事を通じて正の外部性をもたらしており、社内の「心理的安全性」が高い傾向にあるといえるようです(参考:2019/7/1付け日本経済新聞「「心の資本」を増強せよ 会社の生産性、カギは幸福感」)。社員間の健全なコミュニケーションは、企業の存続や好業績の礎になると考えられるでしょう。(次回につづく)

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