Writingsコラム

埼玉うどんに多様性を学ぶ

うどんの生産量、消費量、人口あたりの店舗数などで圧倒的なうどん人気を誇る香川県は「うどん県」としてPR活動を展開していますが、生産量全国2位である埼玉県がその牙城に挑んでいるのをご存知でしょうか。

うどんの原料である小麦生産量は、埼玉県は全国6位。都市化により、生産者が減ってきているようですが、うどんに向いた品種で埼玉うどんを応援する農家も出てきているようです。そもそも小麦栽培で芽が出た際、踏むことで、根の成長や育成を助ける「麦踏み」を提唱し、生産量を伸ばした功労者は、江戸末期に熊谷市に生まれた権田愛三。「麦踏み」は、昔は人力で行われていましたが、現在ではローラーなどの農業機械で行われており、小麦栽培に欠かせない過程です。

埼玉では昔から小麦栽培が盛んに行われており、それに伴い、うどんもよく食べられていました。2021年の大河ドラマの主人公で、「近代日本経済の父」と言われる渋沢栄一は、深谷市出身。家庭料理の煮ぼうとうが好物だったと言われています。山梨のほうとうと違い、カボチャが入らず、味付けは醤油ベースであるのが深谷周辺の煮ぼうとうです。

埼玉西部エリアでは、つけ麺タイプの武蔵野うどん。コシが強く、硬めの麺に、キノコや豚バラ肉などが入った醤油ベースのつけ汁をつけて食べます。埼玉うどんは歯応えのあるものが多いのですが、ツルツルシコシコと、喉越しいいのが加須うどん。細くて上品な見た目が特徴的です。鴻巣辺りでは荒川の広い川幅に模して作られた川幅うどんが有名です。8センチほどの平麺はインパクトがあり、よくテレビや雑誌で取り上げられています。

行政上、合併して市の名前が消滅することを憂えて生まれたのが、鳩ヶ谷ソース焼うどん。当時の市長と商工会議所が開発したそうで、土地柄、ソースの愛好家が多かったために、ソース味。今では川口市のご当地うどんとして多くの飲食店が作っています。

群馬県に近い秩父エリアでは幅広い麺と野菜を煮込む「おきりっこみ」。群馬の方が有名ですが、秩父地方でも愛されているようです。そして同じく秩父周辺で食べられているのが、「あずきすくい」。三角形に折られたうどん生地の中に甘く煮た小豆を入れたお汁粉のような一品。おやつ感覚で食べられているそうです。

このように埼玉のうどんは地域ごとに違い、多様性に富んでいます。それぞれが「埼玉うどん」として、互いの個性を認め合い、共存し、ゆるやかに連帯しているようです。

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