Writingsコラム

山梨県人にとっての無尽(むじん)

山梨県人が必ずと言っていいほど所属している組織があります。それは無尽(むじん)。費用を積み立て、月に1回くらいの頻度で集まって飲食を共にする催しです。食事代以外にお金を積み立て、資金を融通し合うという役割もあります。

全国各地で無尽のような資金相互扶助組織はあり、無尽講(むじんこう)、頼母子(たのもし)、頼母子講(たのもしこう)、模合(もあい)などと呼ばれています。神社仏閣への参拝目的で集められた資金を、生活困窮者救済のために使ったというルーツを持つ頼母子は、室町時代に始まりましたが、山梨のものは鎌倉時代が起源と言われ、「無尽」と呼ばれ始めたのは江戸時代からです。「講」というのは組合形式の共済的金融の仕組みを意味します。

昔は相互扶助の民間金融機関として機能していた無尽でしたが、現在は飲食や旅行など、娯楽性の高いものに変化しています。山梨県人は職場や町内会、趣味など、平均して3つほどの無尽に加入しているようです。社交的な人は10以上の無尽に参加している場合もあるとか。もちろん飲食店もグループ客の無尽の受け入れ体制は万全で、店の入り口に「無尽承ります」の表示が掲げられていることが多くなっています。

起業する人が無尽で資金を募り、事業の販路等を無尽の関係者に紹介してもらうという利用法もあるようです。趣味や酒席で人柄を知ってもらい、事業のネットワークに入れてもらうというのは、きっと古くから商人の間で使われてきた手段なのでしょう。

こういった無人を通じての親睦の機会が多い山梨県人は、日常生活を制限することなく健康的に生活を送ることができる健康寿命が2016年では都道府県別で男性1位、女性3位となっています(※)。高齢者は、旅行や山の多い県内のハイキングを無尽で楽しんでいることが健康寿命を伸ばしているのではないかと推察されています。一方、宴会中心の無尽が多すぎると生活習慣病を招き、健康な親世代よりも先に亡くなってしまうという事例もあるようで、効果は表裏一体のようです。

こういった無尽文化が根付いている山梨は、飲食店の新型コロナウィルス対策も徹底しており、「山梨モデル」と呼ばれ、他地域の参考とされています。これもまた、無尽を愛する山梨県人の情熱の表れなのでしょう。

※厚生労働省2018年健康日本21推進委員会発表

アーカイブ

ページ上部へ戻る