Writingsコラム

愛媛・道後温泉とお茶菓子

瀬戸内海に面した愛媛県。県庁所在地である松山市は松山城を中心に栄えてきた城下町です。街中を路面電車が走り、名所が凝縮されているので、観光にも便利。移住したいという希望者も増えているようです。

松山といえば、道後温泉の名がまず上がるかと思います。古くは「源氏物語」にも出てきたようですが、何といっても夏目漱石「坊ちゃん」で主人公の坊ちゃんが通った温泉であることが有名でしょう。レトロな建物が目を引く道後温泉本館には「坊ちゃんの間」があり、夏目漱石ゆかりの品が飾られています。また小説の中に出てくる団子は、つぼや菓子舗という老舗和菓子店が作るあんこだけの「湯ざらし団子」というものですが、大正10年頃、抹茶、黄、あんこの三色団子を「坊っちゃん団子」とし名付けて発売しました。つぼや菓子舗は店頭販売のみですが、他店も多く作っており、松山土産の一つとして名を馳せています。

実は漱石は甘いものが大好き。胃を患っていたことはご存知かと思いますが、晩年は糖尿病を発症し、妻には厳しい食事制限を課されていました。しかし監視の目をかいくぐり、子供たちのためのお菓子をこっそり食べるなど、なかなかの執着ぶりを発揮します。

漱石の友で松山出身の俳人・正岡子規も甘党です。毎日、間食に菓子パン10個ほどを食べていたとか、柿は一度に10個以上は食べたなど、大食い逸話がたくさんあります。子規は脊椎カリエスという、骨の炎症から激痛が起き、次第に動けなる病を患っていました。ですが、多すぎる糖分は、代謝のために骨からカルシウムを奪ってしまうのです。これが脊椎カリエスの原因の一つなのだとか。34歳という若さで亡くなった子規の病が、過剰な糖分摂取のせいと考えると、甘い物好きの方は特に心が痛むことでしょう。

愛媛県の定番の茶菓子といえば、まずは一六(いちろく)本舗の「一六タルト」が挙げられるのではないでしょうか。タルトと言っても、形状はロールケーキで、白いカステラ生地にあんこが巻かれています。そして、愛媛県民なら必ず読めますが、他地域の人はなかなか難しい、瀬戸内銘菓・母恵夢(ポエム)の「ベビー母恵夢」。バターの効いたしっとり生地の中に、白あんが詰まった一口菓子です。新しいところでは、霧の森菓子工房の「霧の森大福」。地元の新宮茶をたっぷりまぶした、クリームとあんこが中に入った大福で、人気のため連日大行列となっています。

温泉に入る前に、適量のお菓子を食べておき、あらかじめ血糖値を上げておくと、立ちくらみなどを防ぐことができると言われています。温泉宿に着いた時、ウェルカム・スイーツとして名物のお菓子がよく置かれていますが、こういった「お着き菓子」を食べて、ゆっくり体調を整えてから温泉を堪能したいものです。ですが、くれぐれも食べ過ぎにはご注意を。もう一つ、と手が伸びかけたら、漱石や子規のことを思い出してみてください。

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