Writingsコラム

センサリールームの広がり

聴覚や視覚が鋭敏なために、大きな音や強い光が苦手な人がいます。そうした人たちのスポーツ観戦を楽しみたいという気持ちを叶えるため、スタジアムや国立競技場などでセンサリールームを設置する事例が増えています。センサリールームとは一体どういったものなのか、発生の経緯と利用の広がりをみてみましょう。

少し遠回りになりますが、まずはスヌーズレンという言葉を知っておいてください。オランダ語で、クンクンとあたりを探索する様子を表す語(Snuffelen)と、ウトウトして気持ちのいい状態の単語(Doezlen)を組み合わせて出来たのがスヌーズレン(Snoezelen)。この言葉は1970年代オランダで、重い知的障害のある人のために生まれました。光、音、匂い、振動、触覚などを優しく刺激してくれる空間がスヌーズレンルーム。こうした空間は、障害を負っていてもリラックスしやすいため、アロマテラピーや音楽療法などを受け入れやすくなります。1980年代から派生した感覚刺激を利用したケア療法の発展とともに、スヌーズレンルームは、マルチセンサリールームとも呼ばれ、ヨーロッパを中心に広がっていきます。

介助者がいるスヌーズレンルームと違い、センサリールームには介助者がいません。幅広い利用者を対象としているためで、症状や医学療法に極力合わせた環境の必要はなく、ある程度の定型条件を備えた空間であればセンサリールームとすることができます。

センサリールームは、日本でもセラピー施設や保育園などに普及しつつありました。そういった流れを読み取り、2019年川崎市等々力競技場に導入されたことで、日本でも認知が一気に広がってきました。川崎市と、富士通やANA、JTB等の地元企業との協議から設置されたセンサリールームは、大きな音や眩しい光が苦手な人でも、大きな窓越しからサッカーの試合を楽しめると大好評。以降、ノエビアスタジアム神戸、国立競技場などに導入され、人混みや大歓声にすくんでしまう人たちの楽しみを確保しています。

安らぐ照明はパナソニック、触れて安らぐクッションなどはヨギボーなど、各社は協賛しているチームの競技場を皮切りに、親子セラピーや介護といったニーズを汲み取り、センサリールームの設置を広げていこうとしています。専用空間が用意できない場合、普段使っている場所をセンサリールームに変えるというシステム提供や、子供が自分の気持ちを表現しやすくなるアプリの体験など、ショッピングセンターやショップなどでセンサリールームの体験イベントなどが次々に行われています。

敏感な感覚を持って生まれた子供だけではなく、落ち着いた照明や心地よい温度や湿度、触り心地の良い素材に囲まれた空間は、ストレスで消耗している大人の心も癒してくれます。今後、幅広い層に対して、センサリールームの必要性は高まりそうです。

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