Writingsコラム

スーツの個性は細部に宿る

ビジネスの場でもカジュアルな服が浸透してきましたが、男女問わず、やはりスーツは制服とでもいうべき位置にあります。人に会う機会が増えた今、慣れ親しんできたスーツスタイルを振り返ってみましょう。

スーツの原点は16世紀の農民の上着フロックコートとトラウザーズ(長ズボン)だと言われています。この頃の貴族は襟や袖口にレースを飾ったシャツの上に刺繍を施したダブレット(腰丈の上着)にジャーキン(腰丈のアウターベスト)を重ね、ブリッチェス(半ズボン)姿でした。1789年のフランス革命で、貴族も市民と同じような長ズボンを履くようになり、ファッションの中心地も、革命の影響でパリからロンドンへと移ります。

19世紀に入ると燕尾服(スワローテイルコート)、ウエストコート(ベスト)、トラウザーズという現在のスタイルが英国貴族の中で確立されていきます。ですが、燕尾服は丈が長く動きにくいので、丈の短いタキシードやジャケットが主流になります。20世紀のアメリカでより着やすいジャケットが作られ、ビジネスウエアとして認知されていきます。日本では明治維新から洋装が導入されましたが、オーダーメイドで価格が高く、一部にしか普及しませんでした。第二次世界大戦後に大量生産されたことから、一般的になりました。

古い写真を見ると、スーツのシルエットの違いに驚くことがあります。ここ50年に限っても、1960年代が現在と最も近い細身タイプですが、70年代は細いウエストに大きな襟、幅広のパンツと、逆方向へと向かっていきました。80年代は大きめサイズのソフトスーツが流行し、90年代はジャケットのボタンが3つに増え、パンツも太めのまま。ボタンの数は2000年代に2つに戻りました。この頃からシルエットはビックサイズからタイトなものへと戻っていきます。

スーツは定型とされる部分が多く、大胆に個性を表現することができません。ジャケットの襟、ボタンの数、太い細いなどのシルエットは、スーツの歴史を振り返ってもわかるように、時代によって定型化されており、外れると時代遅れとされてしまっています。男性用は色も定番が決まっていて、ネイビー、グレーなどが主流。あとは生地の質感などで差異を出していくことになります。

現在のスーツはメンズ、レディース共に細身であるため、フィット感が重視されます。ですから初心者こそ、店頭でプロのアドバイスを受け、丈を詰めるなどの調整を行いたいものです。少しいいものが欲しくなったらオーダーメイドもおすすめです。価格も既製品のスーツは一式3万円程度から揃えることができますが、オーダーでもパターンがある程度決まっている店ならば、既製品にいくらかプラスするくらいの手頃な金額であつらえることも可能です。スポーツ等をやっていて、体格的に既製品がどうしても合わない方は重宝しているようです。

規定があるからこそ、守るべきものは守り、個性を出せる箇所は表現していく。スーツの着こなしは、社会で生きる私たちの姿を反映しているのかもしれません。

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