Writingsコラム

都市の雨水利用

気候変動により、雨の降り方が極端になってきました。短時間に集中して降った雨は、下水道の排水許容量を超え、溢れた水で、住宅や地下街、地下鉄などが被害に遭うことが増えています。そこで雨水をコントロールしようと、さまざまな取り組みがなされています。

例えば東京都では、調節池を河川の氾濫対策として設置しています。2007年に運用を開始したトンネル式の神田川・環状7号線地下調節池は、2019年の台風で90%ほど水が溜まりましたが、河川の水位を1.5m下げる効果を発揮したそうです。調節池には、地上に公園や運動場、ビオトープが設置された清瀬金山調節池のように、普段は市民の憩いの場となっている場所もあります。同じようなタイプの調節池は神奈川県にもあります。鶴見川多目的湧水池の一部には日産スタジアムもあり、都市型調節池として広範囲をカバーしています。

一方、雨水を溜め、平時は生活用水として活用していく、昔ながらのシステムも進化しています。タンクに溜められた雨水は、個人宅ではガーデニングなどで利用されることが多いものですが、ビルや公共施設などではトイレの洗浄水に活用されています。東京・六本木ヒルズでは大規模水処理施設を導入し、災害時までを見据えて雨水の再生利用施設を稼働中。この再生水は、生活用水だけではなく、夏場に街角で噴霧されるドライミストとしても使われています。

ただ、雨水を溜めるタンクは、豪雨時に溢れてしまえば逆に災害を招いてしまいます。福井県の福井工業大学では、雨水タンクの水量をセンサーで一括管理し、ダムのように調節していこうという試みがなされています。溜めた雨水は、平時はトイレなどで使っていきますが、豪雨予想がされた際には、自動で排水して備えるという、ダムに似た「雨水タンククラウド」を開発。2020年度のSTI for SDGsアワード優秀賞を受賞しました。

このプロジェクトは、長崎県五島列島の赤島から始まりました。赤島は生活用水の全てを雨水に頼っており、昔から屋根から滴る雨水を集めていたのだとか。しかしこの仕組みでは限界があります。そこで全ての雨水を地面に染み込ませず、一部を島の中心部のタンクに集める「雨畑(あめはた)」を作った結果、効率が上がり、共同浴場など島の公共施設での利用が可能になりました。この赤島で使われた「自律分散型スマート雨水活用システム」が元となり、気象情報と紐付けた都市型システム「雨水タンククラウド」が出来上がったのです。

昔、雨水は天水(てんすい)とも言われ、大切に使われていました。水害は怖いものですが、現代においては土木技術やITを活用し、恵みの雨をなるべく無駄にせず、上手に利用していく方向に進んでいっているようです。地域によっては貴重な水ですから、水に恵まれた場所に住んでいても大切にしたいものですね。

アーカイブ

ページ上部へ戻る