Writingsコラム

神奈川県の団地事情

1950〜60年代、団地住まいといえば、おしゃれな暮らしの象徴でした。この世代が入居した団地は高齢化が進み、一戸建てに引っ越すことも増えていって空き部屋が増え、2000年ごろには取り壊されていきました。1980〜90年代に建てられた団地に入居した世代も同じ道を歩み、現在、全国各地で老朽化や高齢化、空き部屋問題に直面しています。そんな中、神奈川県の団地にはユニークな変化が起きていました。

1971年にできた「いちょう団地」は、横浜市と大和市にまたがる神奈川県最大の公営団地ですが、たくさんのアジア圏の人々が住んでいます。入居者の約二割が外国籍で、団地内の商店街には東南アジアの食材を扱う食料品店や、本場の味を楽しめる料理店がたくさんあります。特に多いベトナム人を対象にした料理店では、旅行に行かずとも「ガチ」な味を堪能できます。

「いちょう団地」にベトナム、ラオス、カンボジア人が多いのは、1970年代から始まった大和市の難民受け入れ施策のためです。現在は中国やペルーなど、10カ国以上の人々が暮らしています。そのため、団地内ではゴミの出し方や侵入禁止の表示など、6ヶ国語で説明文が併記されることが当たり前になっています。

同じく横浜市の「霧が丘グリーンタウン」は、インド人が2022年現在で約800人住んでいるとか。団地全体の住民数は約11,500人なので、全体の7%ほど。増加の理由は、横浜市が行ったインドのグローバルIT企業の誘致がきっかけでした。

「霧が丘グリーンタウン」は1980年代に建てられた団地ですが、田園都市線・青葉台駅、JR横浜線・長津田駅から、共にバス利用であるものの10〜20分という距離にあり、子育て世代にも人気があります。シニア世代となった古くからの住民、新しく引っ越してきた子育て世代、そしてインド人家族が、ダンスなどの地域交流会やコミュニティカフェで交流を育んでいます。インドでは地域住民が一体となって子育てをしていくため、子供を通じた家族ぐるみの交流が関係性を深めてくれるようです。好奇心が強く、外国に関心が高い、この地域特有のシニア世代の特性も一役かっている模様です。

横浜市緑区の「竹山団地」では、神奈川大学のサッカー部が寮として団地を利用しています。2020年「竹山団地プロジェクト」を大学と神奈川県住宅公社が結び、団地住民をサポートする活動が始まりました。

1971年に完成した「竹山団地」の住民は、現在、四割以上が65歳以上のシニア層。寮として団地に住む学生たちは、住民にスマホを教えたり、草むしりなどの地域活動行なっています。同校の監督は、サッカーにおいて、ボールを持たない時間が大切と考えています。また、卒業後の社会で自律的に生きていくためのスキルも学生の人生のために必要だと思っています。団地での地域貢献活動やイベント企画の交渉などが、学生たちの能力を磨く練習となっていることに間違いないようです。サッカー部の成績は2022年度では関東大学一部リーグで2位。日本A代表の伊東純也や佐々木翔が神奈川大学サッカー部出身です。

古い団地に新しい光を当てる神奈川県の事例は、これからの高齢化社会の参考となります。団地に限らず、これからより一層、既存システムのリノベーションが増えていくのでしょう。

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