Writingsコラム

デューデリジェンス、用法の違い

言葉は時代によって意味合いが変化したり、意味が加わったりするものです。ビジネス用語にも同じ現象が起こります。今回はデューデリジェンス(Due diligence)に関して再確認してみましょう。

デューデリジェンスは企業買収(M&A)時に必ず使われる用語で、適正評価という訳語があり、DDと略されています。買収対象となる企業の、財務、法務、経営実態を調査し、正しい実態を把握し、買収に値する企業であるかどうかを決定する材料となります。こうして監査した報告書がデューデリジェンスレポートで、専門家である公認会計士や監査法人、コンサルティング会社が担当します。

もう一つ、デューデリジェンスは大きな意味で「何をなすべきか慎重に調査し、計画を立てること」という使い方もします。具体的には企業がリスクに対しての対処方法を、他者に対して合理的に説明できるように体制を整えることを示します。コンプライアンス(法令遵守)がベースにありつつ、リスクに対処する総合的な姿勢を表します。

似た言葉にデューケア(Due care)というものがありますが、こちらはセキュリティ意識を持って、正しい行動を正しいタイミングで行うこと。コンプライアンスに軸足に置き、不見識や不注意による過失を防ぐという意味で使われています。

どちらも「正当な」という意味の形容詞Dueがついているために混同しがちですが、デューデリジェンスは経営者視点に寄った考え方で、デューケアは個人レベルで組織のリスクに対して準備しておくという場面で使われています。

企業の社会的責任を定めたISO26000やJIS Z 26000では、企業が個人の人権を侵害しない、人権侵害に加担しないことを求める注意義務をデューデリジェンスとし、これを企業に求めています。そこから人権デューデリジェンスという表現が生まれました。

この場合のデューデリジェンスも、長時間労働や賃金の未払いなどの人権侵害を監査・評価するという意味になり、人権侵害はリスクと考えています。改善・解消へと進めていく上で、現状の把握と評価が必要であることは、企業経営と同じ。そういった考え方が浸透してきたからこそ、デューデリジェンスの使用分野も広がってきたと考えられます。これからますます目にしていく機会が増えていきそうなので、用法の違いを改めて確認しておいた方が良さそうです。

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