Writingsコラム

梅干しについて考えてみる

スーパーなどで梅の実を目にする季節です。梅の収穫期は梅雨の時期。雨が続く時期に重なることから「梅雨」という漢字が当てられたという話もあります。昔から梅の実は、梅干しとして日本人の食生活に取り入れられてきました。お馴染みの食材の代表である梅干しについて、少し紐解いていきましょう。

梅は3世紀頃、中国から日本にやってきたと言われています。香りのいい花が愛でられ、漢詩や和歌の題材に取り上げられていましたが、梅の実の薬効についても昔からよく知られていました。約2,000年前に書かれた中国最古の薬物学書「神農本草経」には、すでに梅の効用が記載されています。

最初は杏や桃などと同じく、完熟梅を生で食べていたようです。塩漬けにして保存食として食べられるようになったのは、平安時代中期と言われています。村上天皇が病にかかった時、梅干しと昆布を入れたお茶を飲んで回復した故事から、元旦に飲む縁起のいい飲み物「大福茶」として広がっていきます。

鎌倉時代には僧侶の酒の肴として、武家では出陣の際に縁起がいいと、梅干しを食べる習慣があったりしました。戦国時代からは保存性の良さから兵糧食として重宝されます。江戸時代になると庶民の食卓にも上るようになり、この頃からシソと一緒に漬け込む梅干しが普及し出します。青梅の甘露煮や、すりおろした青梅を煮詰めた梅肉エキスが生まれたりと、食べ方にバリエーションが生まれてきました。

梅酒や梅シロップには生で食べられない青梅を使いますが、梅干しには完熟梅が使われます。未熟な梅には下痢や中毒を引き起こすアミグダリンという物質が含まれています。が、見た目では判断しにくいため、万が一に備え、梅の実は加工されるのが一般的です。

基本的に梅干しは20%前後の塩分で漬け込みます。手作りすると実感しますが、塩分量が18%以下になるとカビが生えやすくなって失敗しがちです。こうして作った梅干しは、はじめは塩辛いものですが、年月が経つと熟成されて味に丸みが出ます。市販の梅干しは減塩や酸味軽減、手頃な価格という消費者のニーズに従い、長期熟成することなく、一度水や塩水につけて塩分を抜くことが多くなっています。これに甘味や旨味をプラスして、失われた味わいを戻したものが主流です。

梅干しの消費量は年々減少しており、2002年一世帯あたり(2人以上)1,053gがピークで、2021年には658gと全盛期の4割減となってしまっています。2023年1月に梅干し生産業者がSNSで「倉庫がパンク状態で、商品の行き場がありません」と訴え、一気に拡散したせいで、多くの人が梅干しの消費量がいつの間にか減っていたことに気づきました。

高齢世代が塩分を控える傾向にあることや、若い世代が梅干しの酸味を敬遠しているせいだという説もありますが、子供世代では調味されていない本来の作り方の梅干しの強い酸味こそおいしいという意見もあります。殺菌作用があり、新陳代謝を促進してくれるなどの効用がある梅干し。夏に陥りがちな食欲不振にも効果的ですから、もっと食生活に取り入れていくべきなのかもしれません。

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