Writingsコラム

北海道・先住民族アイヌの文化

2020年7月北海道の白老(しらおい)町にアイヌ民族の文化を伝える「ウポポイ(民族共生象徴空間)」がオープンしました。関心は高いものの、コロナ禍の中で入場者数が伸び悩んでいましたが、3年経った今夏から、ようやく軌道に乗り始めてきたようです。

アイヌは民族名称で「人間」という意味です。ウポポイは「大勢で歌うこと」といいますから、なんだか楽しげです。アイヌ語は日本語とは文章の構成や発音が違っているため、表記しづらい単語もたくさんあります。「こんにちは」を意味する「イランカラぷッテ」の「ぷ」の部分は軽く発音する、アイヌ語由来の知名・登別(のぼりべつ)は「ヌペるッペ」と「る」は小さめに言うのが本来の発音です。北海道の地名で、漢字の読み方に迷う場合はアイヌ語由来の場合が多く、音の近い漢字を当てているためです。

動物や植物、地震などの気象現象、人間が作った道具など、アイヌ民族は全てに「霊魂」が宿っていると考えています。中でも人間にとって影響が大きく、人間の力が及ばないものに対しては、神(カムイ)と呼びます。神は神界にいるときは人間と同じ姿をしていますが、人間界にやってきた場合は動物や嵐などの自然現象に姿を変えるという解釈をしています。そうしたことから、狩りで肉や毛皮を手に入れたり、使っていた道具が壊れたりすると、宿っていたカムイを神々の世界に帰す儀式「送り」を行い、感謝の気持ちを伝えます。

厳しい北海道の自然の中で、アイヌ民族は集落ごとに狩猟や漁業、植物採取で暮らしを支えていました。食生活の中心はオハウと呼ばれる鍋料理で、シカ、クマをはじめ、キツネやタヌキ、ウサギ、リスなども食べていました。味付けは薄い塩味で、ギョウジャニンニクなど匂いの強い香草や木の実などで風味をつけます。エゾシカ、ヒグマ、アザラシ、サケは皮で服や靴、物入れを作って、全てを無駄なく使い切っていました。

和人との交流で、少しであるものの農作物も作られていました。雑穀を炊いたものや団子は、クマやシマフクロウの霊送りや冠婚葬祭など、年に数回しか食べられない特別なものでした。

儀式に欠かせないのが歌と舞踊です。神々の祈りを表す他に、豊漁を願ったもの、労働する時、あるいは純粋に楽しみのためになど、あらゆるシーンで歌や踊りが楽しまれていました。口で奏でる琴のようなムックリやトンコリなど、独自の楽器も使われ、賑やかに宴が愉しまれていたのです。

残念なことに明治時代にアイヌ文化が否定され、人権を無視した扱いをされてしまいましたが、1997年北海道旧土人保護法が廃止され、代わりにアイヌ文化振興法が施行されました。2007年国連が「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が交付され、差別されていた先住民族が世界的に見直されています。

そしてアイヌの少女がヒロインとして活躍する漫画「ゴールデンカムイ」(野田サトル作)が大ヒットし、かつてのような偏見を持たずにアイヌ文化を知ろうとする人々も増えました。これからの私たちに必要な自然との共生生活を、アイヌ文化を通じて学んでいきたいものです。

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