Writingsコラム

本の印象を決める装丁

本屋を巡っていると、普段読まない分野や著者でも、デザインが気にいったという理由で本を買うことがあるかと思います。本の第一印象を決めるデザイン、装丁についての知識を深めていきましょう。

まず、装丁とブックデザインの違いですが、本の外側(カバー、表紙、扉、帯)だけを担当するのが装丁。本文の文字組みや書体の選定、紙の選択、写真、イラストに至るまで、視覚的なこと全てを担当するのがブックデザインです。けれども最近では、この二つの言葉が混じり合う傾向にあり、装丁家という肩書きで、トータルに本のデザインをする場合もあります。

出版の歴史で見ていくと、ブックデザイナーが生まれるのはかなり後になります。16世紀にグーテンベルクが活版印刷術を発明し、それまで手で筆写するしか方法がなかった本は、大量生産が可能になりました。本は紙に印刷され、製本という工程を経て一冊にまとめられます。が、利益を増やすため、製本工程を省くことでコスト削減を行なう印刷業者が現れ、バラバラになりやすい仮綴じ本や、そもそも綴じられていない本が市場に流通することになります。

これに異を唱えたのがフランス国王ルイ14世です。「パリ市内において、印刷と製本業者は、互いの領分を超えてはならない」という勅命を出しました。この勅命はパリの製本業者を守ることとなり、フランスでは仮綴じ本の装丁やボロボロになってしまった本の修復を行うルリユールという職人が育っていきます。

古書蒐集家でもあったルイ14世には、専属のルリユールや書体デザイナーがいたとか。貴族や聖職者も高価で唯一となる自分だけの装丁本を好んだため、優れた技術や美的センスを持つルリユールは重用されました。一方、印刷業者は製本することは許されていませんでしたが、表紙に使う薄いカルトン紙(本来、製本に使うのは厚紙)を扱うことは許可されていたため、薄いカルトン紙を使用して、ルリユールの仕事を真似た装丁を行い、安価な本作りを行いました。これに負けまいと、ルリユールたちは自分たちの技術とセンスを磨き、真似できないようなレベルへと高めていきます。

ルリユール(relieur)はフランス語で「やり直す(re)」と「綴じる(lier)」という二つの語を合わせた造語です。日本語では工芸製本、装丁芸術と訳されており、大量生産の装丁とは一線を画す職人技となります。実は日本でも江戸時代は和綴本の職人がいましたし、明治の文豪でも夏目漱石などは、お気に入りの装本家に自作の装丁を頼んでいたりしていました。西洋の技術を取り入れ、高価な材料を使って高い技術で作り上げた特別な本の装丁は、工芸や芸術の域に達していたため、日本語の訳語に取り入れられたのです。

時は流れ、出版の形態も職人が一字づつ活字を集める活版印刷から、PC上で完結するDTP、それを集約したオフセット印刷へと変わりました。技術革新はデザイナーの仕事の幅を広げ、書体の選択や字詰め・行組など、本の中身までデザインすることが可能になりました。紙だけではなく、電子書籍も普及している今、これからもっとブックデザイナーの仕事の範囲は変化していきそうです。

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