Writingsコラム

山のトイレ問題

紅葉を楽しむために山登りをする人が多い季節です。人が増えれば、トイレも混み合うというのが自然な成り行き。登山人口も増えている今、山のトイレ問題はどんどん深刻化してきているようです。

つい忘れてしまいがちになりますが、大抵の山には水道や排水施設は完備されていません。トイレは山小屋か、限られた場所にある公衆トイレのみ。一昔前の山のトイレは、溜まったし尿を周囲に埋めるという方法で処理されていました。ですがこの手法は、水源などの環境に悪い影響を与えてしまうため、し尿をタンクに入れて人力で運び出すという方法がとられています。場所によってはヘリコプターで運び出すこともあるようです。

訪れる人が増えれば増えるほど、汚物は溜まり続けます。多くの人が集まる山荘などでは、汚物を焼却処理する手法が取られました。微生物を使ってし尿を分解するバイオトイレも開発されています。が、設置にかかる費用が1億円近くとかなり高額。カートリッジ式でタンクが取り替えられる方式のトイレなど、様々な方式がありますが、問題となりやすいのはトイレットペーパー。詰まりやすく、山のトイレでは「トイレットペーパーを流さないで」という場所もよくあります。

かつて富士山は、夏の登山シーズンで溜まったトイレのし尿を、シーズン終わりに一気に山肌に放出していました。広がる白いトイレットペーパーや悪臭。この無惨な光景は「白い川」と呼ばれていたそうです。現在、富士山に設置されているのは、沈殿室に牡蠣(かき)殻を敷き、し尿を浄化する浄化循環式、微生物で分解する簡易浄化式、微生物が分解したし尿を堆肥に変えるバイオ・コンポスト、焼却式、汲み取り式と、すべて環境に配慮した形になっており、悪名高い「白い川」はなくなりました。これらのトイレを維持していく費用として、五合目以上ではトイレチップを支払うことになっています。

一方、屋久島では雨がちで湿度の高い気候のため、バイオトイレの微生物の働きが悪く、稼働率が低くなっているという問題があるそうです。溜まったし尿タンクを運ぶ人員と、訪れる観光客の数のバランスが全く取れていないとか。当初、搬出の費用は登山客からの寄付を募っていましたが、集まらなかったために、一人1,000円(日帰り)の協力金を求めていますが、資金が足りないという状態が続いています。

対策の一環として、屋久島ではトイレ携帯者向けのテントが設置されており、プライバシーが確保された空間で持ち込んだ携帯トイレを利用できます。携帯トイレは登山用品を扱うメーカーで様々な種類が出されています。用をたすための便袋、固める凝固剤、便袋を収納する防臭袋の3点セットが基本ですから、持ち帰る心理的葛藤さえ克服さえすれば、長いトイレの列に並ぶ心配はなくなります。

いずれにしても、オーバーツーリズムの問題の一つが、山のトイレであることは間違いありません。まだまだ開発途上で、観光客は増え続けているという現状を認識しておくべきでしょう。

アーカイブ

ページ上部へ戻る